第57話【勇者達の活躍】
気迫が漲る。
刃が走る。
襲いかかって来たレッドキャップ。つまり現存するゴブリンの最高種であり、その能力はほぼエルダー並みと言われている相手に同時2体に挑まれて、同時に対応を余儀なくされた、佐々木美保は、一斬でその相手を葬った。
綺麗に二つに分け斬られた2体のレッドキャップは地面に落ちる前に黒黒とした闇の様な平面を印象付ける姿になって、そのまま霧散する。
「美保! 大丈夫だった?」
「うん、平気、また消える魔物だったね」
と言う美保は、そのまま聖剣を背の鞘に戻しながら、
「もう一回、本通まで歩こう、まだいるかもしれないから」
そう、木下アテナに言う。
その姿は、以前とは比べ物にならないほどの凛々しさを身につけて、雰囲気も異なる。
そんな変化を、無理もなく、じっくりと勇者化して来た彼女達には実感はないが、深階層で出会ったらほぼ深階層組のダンジョンウォーカーですら絶望的な相手を一人で2体を相手するだけの実力を持つに至っている。
ちなみに木下アテナは決して外国の女子と言うわけでなく、身長も顔の造詣も控えめな、言うなれば日本人形似の可愛らしいお嬢さんである。そしてその相棒である佐々木美保は、ちょっと前までバレーボールを頑張っていた部活少女で、170センチの身長で、スラリとしている少し大人びた少女であり、本来は、7丁目ゲートにいる滝壺愛生と一緒にパーティーを組んでいたのではあるが。勇者の使命として、白石区の概ね平和通りから南郷通付近を守っている。
勇者に任命されて、秋の木葉つまり多紫のもの達に技術指導を受けて、さらに、今持つ聖剣は2本目で、美保は、バスタードソードよりもおおぶりな聖剣『羅湾』そして、アテナは2双のメイス形の『幌向』を持ち、それぞれが自分のスタイルに合う戦い方をできる様になっていた。
以前の『羅臼』では少し小ぶりと感じていた美保は、真面目に部活をやっていた所為もあって、特に地味な筋トレには頑張っていた、あと持久力をつけるためのジョギングなども、そこからの底上げされている筋力やら持久力により、それなりの強撃の扱いに長ける様になる。
また、アテナの場合は、美保と同じくロングソード系の武器ではややレンジが長すぎた様で、戦闘に慣れて行く間に臆病さが無くなって、より近い距離、時として恋人距離での戦闘に向いている事を自覚して、また、斬撃よりも打撃。打った力がそのまま自分の手に戻ってくる感覚を好み、より自分に似合った戦闘スタイルを身につけていた。
かつては中階層止まりであった二人が今では聖剣の有る無しに関わらず、深階層組トップクラスと言ってもいいくらいの実力を兼ね備えていた。
もちろん、彼女達も、時間をかければ何は深階層に辿りついただろう。
だから、聖剣と、魔法スキルの添付はその時間を圧縮したにすぎない。
何より、たった二人で、平和通り10丁目から、白石駅付近を守彼女達は、勇者としてはそれなりに優秀なタイプに他ならない。
どんな聖剣を持っても、また強力な魔法を持っても、向かない人間は勇者としては性能は低い。
しかし、それでも、自分自身を守れる事ができるので、そんな状態でも真壁秋を始めとするこの『勇者化計画』は成功したものと言える。
実際の所、この計画、『誰でも勇者になれる』と歌っているのではあるが、その実、誰もがと言うわけではない。
少なくとも、勇者の資質がないものはなることができず、実はそれなりの調査とダンジョンの神様である三柱神により篩いはかけているのだ。
この計画の実行の時に、ザックリとした意見として真壁秋が提案したのが、『いい人にしよう』と言う意見だった。
いい人。
広義すぎて、本来拾うことのできない人選を瞬時に峻別を行ったのは、何を隠そう真壁秋の剣、アキシオンである。