第56話【全ての慈愛は旦那の為に…】
もしかしたら、それが問題だったのかも、と考えたアモンは、ひとまずギルドも工藤真希に相談。
今にして思えば、あの永い宝との行き違いも、あの真希に相談してしまった事に起因してしまっていたのではないだろうか? とも最近のアモンは思っている。
何より、素直に、「私はお前の嫁になるからな!」って前もって宣言しておけば良かったのかもしれないと、今更思ってみても全ては後の祭りである。
真希が推奨したのは、
「一回、距離を取ってみるといいべ、ちょっと他人行儀に接してみれば、あんな悪ガキで甘えん坊なんか、一発だべさ!」
と勢いのある言葉に騙されて、会話は全て業務的で、立場は従者として明確に接する様になる。
もちろん、その事について明確にわかりやすく、宝が改めない場合は今後はずっとこの対応になると、伝えると、宝としては、何がそこまでアモンを怒らせているのか全く理解できず、それでも、自分の元からいなくなることは決して無いといる確約をもらって、アモンのそんな対応を許した。
宝にしてみれば、アモンがしたいと言うのであれば、別にそれを止める必要も意見もないわけで、対応がツンとしてしまっているだけで、常に一緒にいて、一緒の家に帰って、一緒にご飯を食べて、一緒にお風呂に入って、一緒の布団に寝ているのだから特段問題はないとそんな生活を年単位で続けた。
でも、それが良かったのかもしれない。
求めすぎて、一つになってしまうのは、せっかく二つ体があるのだから、アモンはもったいないって思っていた様だ。
アモンは、怒り続けた。
宝はその怒りを放置ではなく、ちゃんと受け取っていた。
だから、あの時、宝を失うなんてあるはずもない事実に踊らされてしまったアモンだ。
そんな可能性、万に一つ、億に一つもあってはならない。
アモンは、宝の為ならなんでもする。
だから砂つぶの様な可能性も見逃すつもりはないのだ。
そして、互いに融合してしまい、ダンジョンを、いやこの北海道すら窮地に追い込もうとしてしまった最悪な出来事も、今のアモンと宝に新しい意識に目覚めさせる為と思えば徒労でもなかった気がする。
癒合の際にも、宝はアモンに抵抗しなかった。
いつもそうだ。
小さい頃から、宝がすでにアモンの全てを受け入れている。
どんなわがままを言っても、どんな酷い事を言っても受け入れてくれている。
一緒に暮らすマンションの玄関で、行かせまいとするアモンの方を振り向いて宝は言う。
「お前も行くんだろ?」
当たり前の様に、今までの些細な抵抗が、アモンにとっては楽しいお遊びであることなど、とっくに見抜かれている。
「ああ、一緒に行く」
宝は言う。
「俺はさ、多分、この北海道に合ってると思うんだ、お前とも会えたしな」
とか言い出すので、アモンはドキンとしてしまう。
「だからさ、守りたいんだよ、修羅場なんて許さねえからな」
と言う宝にアモンはいった。
「ああ、いいぞ、付き合うさ、愛してるから、当然だ」
とさりげなく言うアモンに驚いて、宝は、
「今、お前、俺に愛しているとか言ったか?」
するとアモンはこう言った。
「いえ」
と短めの否定の後に、
「我が夫よ、あなたとの関係において、私はそのような態度、表情変化、表現をとる事は不可能です、まして、あなたに愛を囁くなどあり得るはずもありません」
凛とすました顔に、清々とした言葉に、宝も、
「だよな、そうだな、気のせいか、空耳かもな」
と肯定するのである。
そんなアモンの普通の微笑みを堪えている顔をじっと見る宝、でも、吹き出してしまそんな顔を見るのも悪いと思うから、そのまま視線を外す。
そして、かつて愚王と呼ばれ、三柱神の一柱に育てられ、長らく姉と言い続けていた嫁を引き連れて宝は新しい修羅場、その戦場に向かうのであった。