第54話【お風呂は今も一緒】
その時は、ダンジョンの子供としてきちんと育てようとしていたのは真希を中心とするギルドであり、運営でもあったのだが、その時に間に入ったのが三柱神の1柱のアモンであった。
彼女は、北海道ダンジョンにおける大事件の一つ。
真壁秋が北海道ダンジョンから『地底に横たわる名もなき偉大な白き神』を引っこ抜いたその事件のどさくさに紛れて、宝を確保。
三柱神の立場を半ば放棄して、宝の為にと、外に家を構えて生活を共にする様になる。
全く躾のなっていない宝に生活全般の面倒を見て、学校に通わせ、それはもう、甲斐甲斐しく世話を焼いた。
ちなみに、お風呂の入り方は未だにアモンから見て不満がある様で、現在も一緒に入っては宝の背、その他を流すのが慣習になってしまっている。
そして、何より凄いと思わせたのは、もう、それが当たり前に躾けてしまった事であり、放置子であり、捨てられたまるでダンジョンを根城にするホームレスの様な童子に対して、「どうして俺にこんなに優しくしてくれるのだろう?」とか、「まるで母さん見たいな人だ」と言う印象を一瞬たりとも、宝に思わせなかった事だろう。
つまり、常に肉親としての情ではなく、一人の男として、当時からその様に扱っていたのである。常識的に考えれば何をばかな、といいたくもなるが、この行動は、自分の好みの男子を巣穴に引き込み、自分にとって最良の夫に育てあげるための、いわゆる、向こう側の、つまりは異世界側の、ごく当たり前の恋愛的慣習なのである。
アモンは所謂、『鬼』の種族である。
しかも、その性質は、ほぼほぼ妖精や精霊に近い。
つまり、ほとんど自分さえ望めば無限とも言える寿命を持っている。
そんな種族の為に、その恋愛感は特殊で、一度、相手を決めると、その生命すら取り込み、肉体を変質させて、永劫とも言える永い寿命を共にする。
その為に、特に下の方に対しての年齢差などまるで気にしない。
自分にとっての条件に合うなら、相手男子が『0』歳児との結婚もためらわない。
相手が育つ、こちらの世界で言うところの十数年間など、無い物と変わらないので、じっくり待つのだ。むしろ楽しんでいると言ってもいい。
アモン曰く、理想は、外に無く中にあるのだから、それに付き合ってくれる男の子を見つけるのは当たり前の事。
と言っている。
そして、何よりその愛は、人と比べても考えられない程深い。
一度愛した人間は、たとえ、その後嫌いになっても愛している。
その後、時として敵になったとしても愛している。
何より、自分を殺そうとする者でも、一度、愛を、気持ちをいれる対象への愛は決してブレることはないのだ。
言い方を変えるなら、一度、彼女達に捕まるともう離してはくれない。
もちろん、生活の上で、関係の上でアモンの様な鬼族に対して怒りを向けられる事もあるだろう。
特に、精神的とはいえ、浮気は咎められる。
そして、なかった事にする為に、自分の旦那ではなく浮気した対象を、細胞単位での消滅を試みるのである。
もちろん、そんな事にならない様に育てられなかった自分を責めるので、その辺はおあいこなのかもしれないけど、相手にしてみればいい迷惑である。
それでも、一度でもそんな鬼族の女の愛に触れてしまうと、こちらの世界の男性にとっては、普通の一般の女子では満足できなくなるなどとも言われていて、ましてや、旦那として大事に育てられた男子なら尚更だとも言える。
永久に歳を取らない理想の異性を表にして、奥から滝の様に迸る母性に溢れ、何より決して裏切ることはない。
まさに男としての性を生きる上では理想の相手なのかもしれない。
ただ、その矯正や、躾に対して実力行使が伴うくらいのもので、特に、アモンの場合は、長年、甲斐甲斐しく世話をした挙句、宝の口から出た言葉が、『姉』であった。
つまり、宝の認識からすると、アモンは嫁ではなく、姉の立場になる様だった。