第48話【聖剣士 麻生一二三】
その切れ味は、難なく鎧をごと相手を切り裂く。そして、麻生の一撃は、この中村の手の中にある剣だ。
「ほう」
と、上半身の首の上につくその中村の顔は、どこか楽しげで、そして、悪魔属とも取れる一角の生えた頭のついた、初老の男の顔が微笑む。
中村の、適当に流すその剣を叩き斬るカシナート。
「なるほど、これは失礼した」
と根本から切られた剣を捨てる中村である。
そして。その手を高々と上げると、どの手の中に、巨大なランスが現れた。
禍々しいと言うよりは、その中村が持つのにどこかふさわしい、神々しいランス。
銀色に輝くそれは、まるで、彼と一体化している様な、そんな様相を麻生に印象付けた。
「なるほど、そちらの姿の方がしっくりくるな」
と、再びカシナートを構え直し麻生もまた、その雰囲気をガラリと変える。
「すまん、みくびっていた、本気で参る」
どちらともなく、ゆるりと、そして次の足ではすでにお互いがトップスピードに達し、互いに加速する接点は、大きな衝撃の後に、麻生の体を後ろに下げた。
馬の体に乗る上半身人の体躯の、ロスの無い攻撃に、スピードと麻生から見て10以上の質量差の攻撃だ。
一般のダンジョンウォーカーなら吹き飛んでしかるべき攻撃だった。
しかし、そんな攻撃を受けておきながら、
「ふむ」
一撃を剣で受け、正面から受け止める。若干、衝撃は緩和できずに下がる。つまり、攻撃の幾分かは麻生の体に残る。そして受けておきながら納得の一言だった。
「この攻撃は全力の物か?」
と麻生は、中村に尋ねる。
「ああ、まごうことなく全力よ」
と中村はいう。
「そうか、ならばこれで負けたら投降してもらえるな?」
と再び問いただす。
すると、中村はい言う。
「すまん、そうも言っていられない事情があってな、我は裏切り者への討伐の任務をもち、ここに降り立っている」
そう言って麻生を見る。
そして、
「お前ほどの男が配置されている、ここに間違いない様だ」
と、
中村は、まるでテレビ塔を背にして、そのさきを、麻生の背中に守られているその先に続く大通公園を見つめていた。
「我宿敵の名は『マキュラデウスマキナ』、かつて我が国を滅ぼし、封印を解く代わりに、この新世界の『殲滅の凶歌』討伐の任を与えたが、その任を果たさず、また、『白神』が使命を果たさぬ時は、この偽業の地ごとの破壊を命じられていたにも拘らす、その使命も果たさぬ凶悪にして最悪で、奔放な竜よ」
少し驚いている麻生は、
「知らぬか?」
と中村が尋ねると、「いや、まあ」と答える。
すると、ちょっと中村の、苦虫を100匹ほどまとめて噛み潰した顔が緩んで、
「ほら、こっちでは『真希ちゃん』と名乗っているぞ、ギルドの真希ちゃんだ」
まるで、互いの行き違いを生じさせぬ気配りを見せて、そんな言い方をすると、今度は麻生が、
「いや、よく知っている、知っているから尋ねるが、アレを中村氏は単兵で討ち取るつもりか?」
こっちも割と真剣な顔をしていると言うか、どこか中村を気の毒そうにと言うか心配している表情になる。
そして、
「あれは倒せんぞ、無理だ、死ぬ気か?」
と端的にまとめて言う麻生である。
「そうだな、しかしそれは我が一族の使命なのである」
と言う中村である。そして、
「その使命に準じるのは私一人で十分だ」
と言った。
そこで、麻生は悟る。
この中村は、最初から死ぬつもりでここにいるのだ。
きっと、異世界側の都合とか、家の事情とか立場とかもあるのだろう。
そして、その犠牲は自分一人で十分だと考えている。
こうして、一瞬でもその手が休まり、戦闘状態が途切れるとあたりの景色を見回している中村に、麻生は、これから先の一族の心配でもしているのだろうと、そんな風に思えた。