第47話【凶竜マキュラデウスマキナ】
心に刻まれる使命感は彼をダンジョンへ招く。
ただ、この時点では知るはずもない事実として、問題なのはこの囚われのお姫様は、かつて異世界からティアマトと共にやって来た、異世界側からみても、『最凶の竜』であり、お姫様どころか本来の配置からするとラスボス扱いな破壊の権化である『マキュラデウスマキナ』と言う事実を麻生少年としてはずっと後で知ることになる。
つまり、救うべきお姫様は、倒すべき悪い竜と同一人物なのである。
それでも、当時の麻生少年には目的ができた。
今は、上手いこと騙されたと思っている。
それは、行きたいけど行けないと思い込んで自分の足を止めてしまった少年を、再びダンジョンへ向かせるきっかけになる。
彼に使命を作ってくれたのである。
だから麻生はダンジョン不適合者でありながらダンジョンに入っている。
そして未だその使命は果たされていない。
それらの使命は今も尚も続いているのだ。
だからその約定を違えぬ様に麻生は今日も戦ってる。
札幌のシンボルともいえるテレビ塔を頭の上にして、そんな昔の事を麻生は思い出していた。
いい感じに力が抜ける。
それにしても思うのは、「自分を姫とか……」と思わず吹き出しそうになるものの、相手はの技量はそれを許すはずもなく、それは簡単に隙と捉えられてしまうので、そこは我慢する、北海道ダンジョン一、堅実な剣士とも言われる麻生であった。
大通1丁目に、剣を激しく撃ち合う音が響く。
その剣は言わずと知れた名剣『カシナート』。
北海道ダンジョンにあってベストセラーとも言える剣だ。
その剣を持つ人物は、ギルドの重鎮にして、正統派剣士、内外からも聖剣士とも呼び声の高い、麻生一二三。その相手となるのは、上半身こそ人の姿ではるが、人馬一体のフォルム、ダンジョンウォーカーでなくても、少しばかりファンタジーに詳しい人間なら一目でわかる。俗に言うところのケンタウロス。それが剣を持って麻生と撃ち合っていた。
まさに馬上の騎士と遣り合う形に似ているが、文字通り人馬一体の為に、攻撃にも無駄も隙も無い。
しかし、そんな麻生も、きちんとギルド配給のマスラオの鎧を着込み、その上からの攻撃に対して上手く捌いている。
「大したものだな、私は小兵ながらも、『中村』を名乗る事を許された実力を持っている、この世界にこの様な戦士がいるとは、嬉しいぞ」
と告げる。
そして麻生は、
「なるほど、中村と言う事は全国名字ランキング8位と言うことか、なかなかな人物に出会えた事を光栄に思いたい」
そう言って、今度は自分から勇猛果敢に斬りかかって行く麻生の剣捌きを、これもまた中村は上手くいないして躱す。
そして、麻生は、
「あなたの様な人物なら、剣よりも槍の方が似合いそうな気もするのだが」
とそう言うと、中村は笑う。
「確かにそうだ、この体だからな、いつもなら重槍を使うぞ」
と楽しそうに、愉快そうにそう答える。
「では手を抜いていると言うことか?」
との麻生の問いに対して、
「すぐに終わってしまうのはつまらないではないか」
と中村と名乗るケンタウロスは言った。
すると、今度は麻生は、
「そうか、ならば本気を出してもらうにふさわしい攻撃をしよう」
と、その攻撃への力を一段階上げる。
この時、彼の持つカシナートは麻生が握りしめる柄に対して、最も切れ味の高い形にその向きを整えられる。これこそのが名剣の由来であり、振り抜く際にも恐るべき切れ味が相手に向かい合うことになるのだ。
人の体を、その腕の動きを考え抜いた技術者のたどり着いた形。
それが誰もが強くなる名剣、そして強きものが更にもう一段階、いや数段回を飛び越えて能力を発揮してくれる名剣なのである。
それは、決して魔法や、奇跡なのではない。人が積み重ねてきた技巧そのものなのだ。