第46話【テレビ塔直下の決闘】
大きく長い公園の端の方。
ここはいつもの大通公園。
もう、隣が創生川の流れる創生川通り。
だからそびえ立つ電波塔。
言わずとしれた、札幌市を代表する建築物。今は『テレビ父さん』のマスコットキャラクター(非公認)としても有名な『さっぽろテレビ塔』
そんな光景を見ながら、かつて少年だった彼は、それほど遠くない過去を思い出していた。
それは、自分がダンジョンに体質的に向いていないと言う、体がそれを受け入れないとならなかった現実と、そのダンジョンで見つけた、彼がそう思い、そう思い込むの未だ続く使命。
しかし当時の、悔しくて、誰にも告げづに入ったダンジョンの現実は、まるで酔う様な気分と、地面を見失う様な感覚。
心と体を襲う変化に少年は恐怖し、自ずと怖気付く。
体の自由が失われる中、自由を失う苦しみと恐怖の前にあるのは後悔ばかり。
なぜあの時、自分はダンジョンへ入ってしまったのだろう?
初めて知る体調の変化は、それまで当たり前の様に健康だった彼の心を得体の知れない恐怖に染め上げるのもそうは時間は掛からなかった。
何かのきっかけで友達にからかわれて、悔しくて北海道ダンジョンに飛び込んで行った。そんなつまらない理由なのかも知れない、もちろん、友達だって本気な訳もなく、そして聞いていた少年もまたそんなつもりはなかったのかも知れない。
でも当時小学生低学年だった麻生少年は行く。
飛び込んでしまった。
そして、ダンジョン内での時間の経過は麻生少年から四肢の力を奪い、やがては意識すら切り取って、記憶では浅階層のどこかで倒れた。
今にして思えばそれほど深い場所でもなかったかも知れない。
しかしそれは窮地であると同時に一つの、子供の彼にとって邂逅だった。
彼は出会ったのだ。
本人曰く、お姫様に。
そこで囚われの姫に出会う。
彼女は言う。
「なんでダンジョンに入ってきたべ? お前むいてないべさ」
と目が覚めたときは少年は北海道弁の激しい姫の膝の上に頭を置かれてそんな風に言われる。
その時、何を言われ、どう怒られていたのか、ふんわりと覚えてはいるものの、確実に覚えているのは、このお姫様の様な人物の、人とは思えない程の美しさと気高さ、そして膝の上の柔らかさとどこか安心できる暖かさ、意外に胸は無い事だけは思い出せる麻生である。
結局倒れてしまった、この場所を諦めかけた少年の前に現れた、ダンジョンに囚われのお姫様は、彼に言うのだ。
姫は言う。
「ここは北海道ダンジョン、行動はより強い意思により決定されるところだべさ」
そう彼女は言う。
そして、
「なんかな、こう、お前がどうしてもここでしないといけない事を作ればいいべさ」
と言って、彼女は思いついたかの様に、自分の膝の上に頭を乗せた子供の顔を覗き込んでこう言った。
そして、彼女はブツブツと何かを思いつこうと試みている。「なんか無いべかなあ、男の子が、こう、ガッと来る様な使命感に萌える様なシュチュだべさ……」
そして、急に何かを思いついた様に、
「なら、お前が悪いドラゴンを倒して、私を救って見ればいいべさ」
一瞬、何を言っているのかわからない麻生少年であったが、そこは押し切る彼女である。
「実はな、私、姫なんだべ、でな、悪い竜に閉じ込められててな、最高でも、このダンジョンの直下にある地上の割と地下に近いところにしか行けない可哀想な女なんだべ」
とか言い出す。そして、
「定山渓温泉も、層雲峡も小金湯温泉にすら日帰り温泉行けない可哀想なお姫様なんだよ」
とか言い出す。
なんかちょいちょい現実味のある内容を挟んでくるが、当時の少年麻生にとっても、「何を言ってるんだ?」くらいの気持ちにはなる。
でも、やたらと硬いけど意外にもしっくりと来る彼女の膝の心地よさと、自分を覗き込む彼女の笑顔に、どうしてなのか、あの気を失う程の気分の悪さ抜けて来る。
多少の、具合の悪さは残る。
しかし、その一言で麻生少年お四肢に力が入って来る。
気分も普通の具合の悪さだけが残った。
麻生少年は思う。
そうか、俺はこのお姫様を救い出さないと行けないんだ。