第44話【ダンジョンのお姉さんお兄さん】
学業の成績も優秀で品行方正、ギルドの都合で数日学校を公休にしてもびくともしない優良さに、何より深階層クラスとしてもその実力はトップクラス。そして、良識もあるし常識もある。さらに人を思いやる心があり、頼り甲斐もある。
よって、ダンジョン内からは、中学生(鴨月は高校生)でありながら、北海道ダンジョンの『お姉さんお兄さん』として、頼られる事も多く、普通にダンジョン内を歩くだけで挨拶をされる。
また、社交ダンス界隈でも有名で、奏と鴨月はかつて、悪魔の花嫁であるリリスからガチのダンスを教えてもらって以降、ちょいちょい青年の部で開催される大会に出場しては、好成績を納めている。ちなみにそのトロフィーは全て、奏の部屋に飾ってある。
鴨月の部屋だとからかわれるから、と言う理由らしく、いつでも部屋に入って見てもいい許可は奏から出ているので、鴨月として奏の部屋も入り放題な現状である。
それなりの有名人でもある彼らに、よく尋ねられるのが、
「二人は付き合ってるんですか?」
と言う質問。
付き合って無いです。
と言っても、ギルドにすら、その内容でのかなりの数の質問が寄せられて来るらしい。
事実上のギルド長の真希などは、「もうめんどくさいから、付き合ってる事にすればいいべさ」とか言い出す始末だった。
ちなみに、親友であるホストファミリーでもある雪華からは遠巻きに、鴨月の事をどう思っているかの質問は何度か受けた。
その時の一部の質問の内容で、相馬奏にとって理想の男子ってどんなタイプ?
特に見た目や性格にこだわりとかあるのだろうか?
と尋ねられた時に、奏は、
「見た目は気にしないよ、特に身長も、私より低くてもいいよ、性格も合わない人とは一緒にいられないから、近づかないし、そうだね、一緒にいて疲れない人かなあ」
と呟いている奏を見て、雪華は、
「強い人?とか?」
と尋ねられると、
「いやあ、強い弱いは関係ないよ、それに強い人がモテるなら、今頃、秋先輩はモテモテじゃん」
と言う奏に、
「秋先輩モテモテだよ、闇の軍団の他に大奥持ってるよ」
と雪華が指摘すると、
「ああ、そうか」
と納得する奏であった。ほどよくオチがついたところで、気を取り直して、
「じゃあ、鴨月君でいいじゃん」
とは思うものの、口には出さないでいた。事実、すでに鴨月と奏のツーマンセルは数年の時を重ねているし、一緒にいる事に対しての奏からの愚痴なんて聞いた事がない。
何より、流石の親友である雪華さえも、奏の要求(訓練やら社交ダンス等)には全て叶えることなど無理な話で、それにつきあえる鴨月になら奏を任せられる、ある意味母の様な心情を持つに至っているのである。
元々、ギルドの同期である3人組の一人であった鴨月なのだが、他の二人はすでに彼女持ちで、西木田と左方唯は、すでに夫婦の様なオールレンジで深い関係であり、水島と百目紺はすでに婚約していると聞く。
そんな彼女達にちょいちょい『親睦会』と称するお茶会に誘われて、特に料理の得意な唯の手作りスイーツなどをご馳走になっている奏であることから、彼女達にとっては既に、奏は鴨月の彼女扱いなっている筈なのであるが、そんな会にも特に何も思うところはなく、ただ、『鴨月の彼女じゃないです』と言いつつ、顔を出している。
そして、何より奏のそんな言葉に対して否定も肯定もしないで、毎回、奏を、まるで見守る様に誘う、左方と百目である。
なお、そんな彼女達の目的は、「そっとしておく」である。
特に、奏と鴨月への余計な雑音を消去して、確実にやって来るであろう未来を見守っているのである。その辺は互いの彼氏にも重々忠告している。「余計な事は言うな」と口すっぱく言っている。もちろん友人の幸福の為に、そんな彼女達の意向に文句も言わずに従う彼氏達である。
奏と鴨月に一番近い友人達はそんな姿勢なのである。ともかく本人達の問題なのだから、周りがとやかく言う問題ではないと、あの真希にも通達を出しているくらいなのだ。
それでも周りの状況は徐々に変わって行く中、未だ変わらない鴨月と奏であるが、それもまた一つの関係としていいのではないかと思う奏であり鴨月である。
そして、創成川公園の戦闘を制してのは、奏と鴨月であった。
太田を名乗る狼型の魔物は、そのまま小さく変形し、人型の姿になる。
その形はまるで黒衣を纏った女性の様な姿で、そのまま地上に倒れる。