第41話【三爪の昔話】
同じ生徒でありながら、彼らの一生懸命に付き合わないといけない。
もう、豆腐でも取り扱うみたいに、細心の注意をして、ギリギリの拮抗を演じる。
それでも、そんな状態でも三爪の実力は、全員の中からも頭一つ抜けてしまう。
格闘や戦闘訓練での対戦でも勝っても、喜ぶどころか、どこか物憂げにしている三爪を生意気だと思う人間も出始める。
そして、その後、週に何回か呼び出されては果たし合いの様な真似までさせられて、そこでも、相手に怪我をさせない様にする三爪は相当に、いやもう既にストレスはMAXまで膨れ上がっていた。
そんな折である。
急に、ここいいる白馬に呼び出されたのだ。
多分、生徒の中でも人気も高く、教官を含む学校の人間からは将来、自衛隊のトップになる人物と噂は聞いていた。
確かに体格にも恵まれているし、この時点で未だ成長している体躯は、大人になる事にはもっと良いものになっているだろうと、そう三爪は思い目の前に立つこの男を見つめていた。
そして、人払いをされた体育館で、二人きりの場所で、いきなり三爪は白馬に言われるのだ。
「なあ、お前、手加減してるだろ?」
気取られるはずのないと思っていた三爪は驚く。
だから適当な事を言われているのかもとかも思う、なぜなら自分達、多紫の実力など隠せば一般の人間に看破されることなどないのだから。ハッタリだと思った。
だから、せせら笑いが出てしまう三爪は、自分のそんな表情に気がつくこともなく、
「どうしてそう思うのですか?」
と、思わす聞いてしまう。
すると、白馬は言った。
「ああ、三爪、お前の顔がな、『我慢してます!』って顔に見えるんだよ」
驚いてしまう三爪。
思わず白馬から背けてしまう顔。
その行動の一連で、白馬は確信する。
「ああ、やっぱりな、そうだと思ったんだ」
と気楽に笑っている。その顔がとても嬉しそうなのも腹が立ってくる三爪でもある。
そして、この男何が目的なんだ? と発想する三爪の前に、
「なあ、俺に対して本気出してみないか?」
と言って来る。
「はあ?」
思わず、そんな声が出てしまい、こいつ自分を殺せって言っているのか? と呆れると同時にやはり腹の立って来る三爪でもある。
でもまあ、ストレスも溜まっていたのも事実だ。
本気、まで行かないまでも、少なくとも自分と言う人間を舐めているであろうこの男に痛い目を合わせてやる、と、三爪はそう思う。
何より、自分の知らない世界を、私達とは住む世界が違う事を教えてやる。
そして、白馬は文字通りコテンパンにされた。
人知を超えた攻撃速度の前にほぼサンドバックにされてしまう白馬は、そのまま病院送りになった。
そして、その事実は白馬の口から明るみに出て、三爪の実力は白日の元にさらされる。
それが白馬の目的だったのだ。
隠していた三爪の力をこの学校に知らしめる。
つまりは、三爪を隠せなくしたと言う事だ。
しかも驚くべき事に、三爪は白馬を全治2ヶ月くらいには痛めつけたはずであったが、次の日には、ケロっと普通に学校に来て、包帯や治療の後も生々しい姿であったが、割と元気で、普通に元気に三爪のところに来て、
「いやあ、お前、本当に強いな、全く敵わなかったぞ」
と三爪の顔を真っ直ぐに見て、爽やかな笑顔でそう言い放ったのだ。
怪我をさせて、痛い思いをさせて、恨み言を言われても仕方のない事で、確かに私も一方的にやり過ぎたと、そんな湿った暗がりにいた三爪は簡単に白馬によって日の当たる場所に引っ張り出される。白馬のバカみたいな笑顔で吹き飛ばされてしまう三爪であった。
この時、この瞬間、三爪はグラついた。
自分の持っていた主観が、ガラリと変わった。
張り詰めていたものが、急になくなってしまった。