第118話【僕、母さんに剣を習ってるからさ】
そっか、黒の猟団かあ……。
まさか、深階層の武闘集団にこんなにも早く接触するなんて思わなかったな。
僕はじっと、その二十皮 烽介さん、青と赤の混ざる『里』にて『名は色を名字は臓物を価値は数にて表す者』って言う、そんな名前の人、どっかにいたなあって、今は考えなくてもいいことを考えていた。
すると烽介さんは、
「おい、小僧、『構え』とかねーのかよ?」
ってちょっと不機嫌そうに言われる。
そう言われる僕は、マテリアルブレードを手にしてはいるものの、普通に自然体で突っ立てるだけだからさ、まあ、言われても仕方ないかな、って考えるのは、言い出しっぺのの方が、それっぽいいカッコになってるからさ。
引いた体に、若干前にでる右足、手に持つ日本刀のような武器の切っ先は、僕に向かって僅かな揺れもない。砲台に固定されているミサイルみたいに見えるね。
でも、その刀のきらめきが、なんか見た事ない輝きを発してるんだよね。僕、剣とか刀とかに詳しくはないけど、相当な業物だね、あれ。
最近、欲しい欲しいと、武器ばかり見ていた僕だからそれはわかるんだよ。
って思ってると、烽介さん、僕の視線に気がついて、
「何だ、ガキのクセして、この良さがわかるのか?」
って聞かれるから、僕は素直にうなづいたんだ。うん、そうだね、もうね、普通に一般に売られている、たとえケース入りだったとしても、その直刃の忍者刀の輝き自体が違うって言うか、わかるよ、かなりの業物だ、で、高価そう。
すると、烽介さんは一旦、構えを解いて、まるで僕にその直刃の忍者刀を見せびらかすみたいにしてさ、
「これはな、俺たちの町から代々伝わる工房で作られたものだ、銘を『噛鷺』、鬼の末裔が造りし名刀だ」
聞いてる僕としては、そうなんだな、くらいかな?
確かに言われてみればそんな感じがするからね。
でも、次の一言が余計だった。
「お前みたいなガキが鞘も持たずに遊ばせてる安物の剣とは格が違うんだよ!」
なんて言うもんだから、一瞬だけど、マテリアルソードを持つ僕の手の平が熱を帯びた様に感じた。
いや、気のせいだよね?
で、そこで止まらない烽介さん、
「ガキ、お前は、剣を扱えるのか? 上手に人を斬れるのか? 一体、誰に師事して、剣を振るんだ?」
って聞かれて、師事って事は教わった人って事だよなあ、って思うからさ、
「まあ、教えてくれた人はいるよ」
って言ったら、
「誰だよ、それは、この町にある札雷館か? あんな町道場、大した事おしえてねーぞ」
って言ってから、
「俺は、俺の町で生まれて、育って、そこで数少ない男子として育って来たんだ、お陰で、死ぬ様な修行に明け暮れてな、町全員に育てられた様なもんだ、その俺の前に立つお前は一体、誰に、こんな平和な北海道で、剣を習ったって言うんだ?」
何か鬱憤でもたまってるのかなあ、まるで開放された様によく喋る。
だから、僕も言ったよ。誰に剣を習ったかってね。
「母さんだよ」
その言葉を聞いて、烽介さんは大爆笑する。
本当に抱腹絶倒って感じて笑う笑う。大笑いだったよ。
もちろん笑われてるのは僕だから、あんまりいい感じはしないけどね。でも、まあ事実だし、それで笑われるのは仕方ないかな、って思うよ。
僕の対人戦の歴史なんて、さっき倒して黒い渦だった人くらいしかいないしね。後は開けてもくれても母さんくらいのものだよ。
でも、まあ、割と命がけだったんだけどなあ
烽介さんは未だ笑い続けてる。もう過呼吸気味で、ヒーヒー言ってる。そこまで笑うことかなあ、って思ったよ。
何かおかしな事言ったかなあ?
まあ、別にいいけどさ。
「そっか、いい母さんだな、息子に剣まで教えてくれるなんてな、そっか、母ちゃんか、そっか」
って、ようやく笑いの渦から脱した見たい。
「もう始めちゃうけど、攻撃しちゃうけどいいの?」
って一応は聞いてみる。
いや、だって、こんなので勝ってしまったら卑怯じゃん。やるからにはさ、ちゃんと、負けを認めて欲しいからさ、圧倒的に勝とうかなって、だからこっちを意識してもらわないと困る。
変に隙をついて攻撃が成功しても、この手の人って卑怯者呼ばわりする可能性もあるからね。僕の考えすぎだといいんだけど。
「ああ、いいぜ、どっからでも……」
許可は得た。
だから行った。
巻いて横に振り抜く剣。
僕と烽介さんとの間に距離は無い。いや、無くしたんだ。
取り敢えず、受けてよ、ってそんな軽い気分のノリだったんだよ。
だから、特にどこを狙った訳もない。その大層な刀が受けるなら受ければいいいや、って思ったんだよね。
だから、そんなに速度は無いんだ。だって、こんなの挨拶代わりだもの。