第37話【高き理想のお屋形様】
魔物達の徹底的な好戦的な姿勢。それでも幸いな事に、これら倒された魔物たちは、実際の所、目が覚めても完全に捕虜の態度になって暴れる事はなかった。以外にも戦う最中はしつこいくらい粘るものの、終わってからの彼らは自分が負けた結果に対して受け入れてくれている様だ。
でも、説明はいるので、できれば、その辺は現場でして欲しいと、特にそれなりの実力を持つダンジョンウォーカーにはその辺は周知徹底されている。
しかし、戦いに置いて、特に多紫の町の出身者の中でもさらに特殊な百家の者達は、戦闘特化な上に、『一撃必殺』を常にされて、幼少の頃から徹底的に教育されているために、敵対者に対しては自然に一撃必殺な攻撃を入れてしまう。
自然に体がそう動いてしまう。もう『こんにちわ』って感じに一撃必殺してしまう。
最近では全力で戦いつつ、まるで相手を傷つけない、お館様である真壁秋の戦い方を参考しにしてはいたつもりではいた。
特に、ダンジョン深層階での『世界蛇』殲滅に関してのお館様の技は切に切れまくっていた。
あれだけの大群を、たった一人で、そしてどれも一撃で意識だけを刈り取っていた。
もちろん、この結果にはアキシオンとしての特殊な刃物としての武器の存在が欠かせないのではあるが、その辺は藍としては知るよしもないので、ともかく、お館様凄い、超イケてる、とそう確信するに至る。
しかも、あれは技でもなければスキルでも無い。
お館様と生活を共にし、お館様の師匠とも言えるお館様の母君を共に生活している蒼様に言われると、あれは真壁家に伝わる一子相伝の技とかでは無く、多くの多紫の家がそうである様に、いやそれ以上の段階でも、真壁家にとって、それは『躾』の類で、所謂、生活習慣みたいなものなのだそうだ。
つまり、日々の挨拶や、箸の上げ下げ、トイレ使用後は上蓋まで閉める、誰もいなくなったと部屋に最後まで残った人は必ず照明を落とす、など日々の生活に含まれた殲滅能力なのだそうだ。
また、よくお館様を見て隙だらけと判断する輩が多いが、それも、かの母君様も一緒で、蒼様に言わせると、それこそ誘導であり罠なのだそうだ。
蒼様も、なかなかの武闘派なので、お館様の母である、かつての『殲滅の凶歌』と未だ伝えられるこの北海道ダンジョン最強者に何度か挑もうと、日々、一緒に生活する上で、隙を伺い対戦へ持ち込もうと思ったらしい。
しかし、それも全部、誘導されての事。
仮に蒼様が挑み掛って行くその形、すでにお館様や母様によって作られてしまったもので、出来上がってしまったようなもなのだそうだ。
つまり、『行く』と行動した時にはすでに、お館様や母様から、『待ち』が、行動に変わり、後の先よりも早い一撃が用意されていると言う。
蒼様、一度、それで死にかけてるのすら自慢気に言うからなあ、と半ば呆れてしまうのではあるが、それも含めて、お館様に対する忠義心と愛情も半端ないから、それはそれでいいのか、と思う藍でもある。
そんな蒼様も、とっくの昔に、『同衾』も始めてると言うし、何より多月本家も押しの姿勢だし、最近では藍の家からも、「お館様ってお嫁さん100人持てるのよね? あの血が百舌の家に入るなら、何をしてもいいから行きなさい、男の子が生まれるまで頑張るのよ」と言われ始めている。しかも、そう言われているのは彼氏持ちではない秋の木葉のメンバー全員に言われている様で、どうも新しい競争が始まりつつある様相である。
それに、最近、わかって来た事であるが、お館様は決して女子好きでハーレム主義者ではないと言う事、何より一途でロマンチストな面も見えて来ている。
これもまた秋の木葉及び真壁秋ファンクラブ共に周知の事実ではあるが、お館様、あの日あの時からずっと、ダンジョンへと消えて行ったかつて『東雲 春夏』を演じていた者を想い馳せていると言うのが共通の認識で、そんな切ないお館様を様の身中を察すると、何かこう胸が切なくなることから、どうやら藍としても、やはりここは取り巻きとして遠くから見ている対象としてのお館様なのだと、そう思う。
だから、たまにお館様が遠くを見ている姿を見ては、きっと東雲春夏の事を考えているんだなあ、と感じると、そんなところも、藍にしてみればいいのではあるが、キュンとしてしまうところではあるが、でも、だからといって、自分の方はともかく蒼様との間については全力で応援したい藍でもあった、と言うか本気で取り組くもうとは思っている。