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北海道ダンジョンウォーカーズ(再up版)  作者: 青山 羊里
◆終章 異世界落下編◆
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第35話【迷子の天使、いつか見た忘れていた光景】

正直に、特に下卑たりせずに、唯が怒った所を説明すればいい、そして今回、西木田が謝るのは唯ではない。


 「本当にごめんな、つい、な、乱暴にして、ごめん」


 と唯ではなくて、魔物の女の子、高島に謝る西木田である。


 誠心誠意、と言った感じに、謝る。


 すると、魔物の女の子は、そんな西木田に対して、


 「しゃ、謝罪を受け入れます、良いです」


 と言い、西木田に向かって、胸を張って言い放つ。


 ほっとする西木田は、怒りを解いている唯を見てさらにホッとする。


 このまま怒り、そして自己嫌悪に繋がる唯の感情の動きは一度ハマると本当に厄介なので、心底ホッとする西木田である。さすが、暗黒と言う名の聖剣『ジ・エプリクス』に見込まれた剣士である。ドツボに落ちて行く時は徹底的だ。


 明るく微笑む唯は、魔物の女の子が泣き止んでいるのを見て、安心した様に、


 「さあ、これからどうしようか? あなたはどうしてここにいるのかしら?」


 と尋ねると、先ほどまでの、涙の跡も残る顔を上げて、唯と西木田を見る。


 そして、


 「父に会いに来たのだ、母と一緒に来たんだ、でも、急にいなくなってしまった」


 と最後の方の声はか細く寂しそうに呟く。


 「わかった、私が探してあげる」


 と二つ返事の唯に、


 「おい! 勝手なことを……」


 言いかけて、泣きだそうになる高島と名乗る魔物の少女。そしてその後ろには彼女をそっと抱き抱える唯が、ジッと西木田を見つめていた。


 仕方なく西木田は、スマホを取り出して、しばらくギルドに戻れない事を告げる。


 特に今は緊急性もなく、その希望は今回の最高責任者である真壁秋に通され、彼から直接「探してあげて、あ、西木田くん、考えてる時の顔怖いから、一緒に左方さんも連れて行ってね、何かあったら呼ぶから駆けつけてよ、それまで、自由にしてて」と直接の許可が出た。現場は小康状態なので、そんなに酷い事態にはならない筈なのだそうだ。


 そして、唯はと言うと、すぐにここを守ために配置された中から、自分の副官とも言える人物を、自分の組織、D &Dのメンバーかれ選出して、そのまま、高島と言う少女の手を取る。


 「どの辺でいなくなっちゃったのか教えてね」


 と優しく語りかける唯に対して、魔物の少女は初めて、ぎこちないが笑顔を見せる。


 こうして見ると、人と変わらないなあ、可愛いなあ。


 と、思わず見惚れてしまう唯であった。


 悪魔の花嫁であるリリスとどこか似てる気がして、リリスの小さい版と思うとどこかおかしくて、その笑顔の理由を解さない少女の戸惑いもまた唯の心をくすぐる。


 「じゃあ、行くか、ともかくこっちから来たんだな? じゃあ水穂大橋を越えて来たってことは、白石区の方向から来たのか……」


 と南郷通りが一直線に霞む先を見つめて呟く西木田の手を、掴む女の子。


 「あら」


 思わず唯の顔が綻ぶ。


 西木田と唯の真ん中に入って、魔物の少女はしっかりと自分から二人の手を握ったのである。


 歩きにくい。と思う西木田ではあるが、ここで手を離すって選択肢もないなあ、と思い、意外に近くにあった唯の顔は、こぼれるくらいの笑顔で、まあ、唯が嬉しいならいいか、とそう思う西木田の手をつかむ、その子供の手から、不思議な感情がまるで記憶の様にフィードバックして来た。


 それはかつての自分。


 昔の自分。


 もう、すっかり忘れていた過去。


 あの最低な親たちに、自分もこうしてもらった過去を、急に思い出してしまう。


 子供を殴る事しか知らなかった親に、昔、手をつないで歩いてもらった過去を、突然、何かの続きを見る様に思い出してしまったのである。


 悲しくも、嬉しくも、後悔も、まして苛立つ様な事のない不思議な感情。


 それは諦めにも似て、全て終わってしまったことを、嬉しかった事も、悲しかったことも、そして怖かったことも過去だと西木田に教えてくれる。


 気がついた時には、唯が西木田の目からこぼれた涙を拭き取っていた。


 だから、自分が一瞬、涙を溢してしまった事実をここで自覚した。唯がいたから自覚できた。


 その顔を見て、どうにも不思議な気分だった。


 そして、唯は言う。


 「私たちは大丈夫、ほら見て」


 二人の手をとり、やけにはしゃぎ始める少女はまるで太陽の様な笑顔を二人に向ける。


 「可愛いからね、優しいの、だから私たちは違う未来に行こうね、翔吾」


 弾む様に言う唯の言葉に、西木田は自分の中にかつてあった、欠けてしまった何かに出会えた様な、そんな気がした。


 気のせいかもしれない。


 でも、大事なことだ、とそう思う。


 迷子を連れ立ち、かつて不幸だった少年少女は歩き始めた。


 水穂大橋の上には、地上に降りたつテンション上がりすぎた天使の様な少女の笑い声が響いていた。


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