第30話【藻岩山(展望台)を死守せよ!】
最悪だ、最悪だ、最悪だ。
なんでこんな人間と組まされてしまったのだろう?
あんまりです、秋魔王殿下!
ここは藻岩山展望台付近上空。
そこで、キリカは、挫けそうになる心で、それでも展望台にある、ロマンチックな光景を見るにつけ、心の消えかかる炎を再び吹き上げて頑張っている。
そして、こ山頂展望台には『恋人の聖地』と知られる(認定済み)『幸せの鐘』がある・
何より新日本三大夜景の一つであるこの聖地に、なんで、こんな奴と……。
できれば秋魔王殿下と二人きりで来たかったと思えば思うほど、深いため息が出てしまう。
ハイエイシェントと言われ、最近ではさらにその上を行くと言われている自分が、伝説伝承の魔物、強いては知名度もNo.1、人気も高いこの私が、不死の王たるこの私が、こんな奴と一緒に、拠点防衛を、こんなピンポイントで任されるなんて、本当にどうかしていると、そう不死王バンパイヤーロードであるキリカはそんなことを考えて、敵からの攻撃を霧になってかわしつつ、再び、その地より高い場所でそんな事を考えていた。
「真っ青! キツいなら下がってろ!」
「誰が真っ青だ! 私はキリカだ! 二度と体の色で私を呼ぶな!」
一瞬の事だった。地上から放たれた数本の矢がキリカを襲う。しかし、その体を霧散させて事なきを得るキリカであったが、霧になった体には確かに物理的な衝撃は文字通り霧散できるが、しかし、その精神にダメージを負う。それを見抜かれているのもなんとなく腹の立つ理由になってしまっているので、返事も怒鳴って返すキリカである。
すると、真々地は、
「なんで真っ青って言っちゃいけないんだよ、青ってかっこいい色だろ!」
とかおかしな方向に切れて怒鳴る。
「気持ち悪いだろ全身真っ青なんて、そう言われるんだ、だから、そう言う意味って捉えるんだ!」
と割と否定的でない意見を言われてしまい、なんとなく言い訳みたいな事を言うキリカである。
いつもは、セイコマートの新鮮牛乳を片手に、真壁秋やら、その辺にからむ姿は温厚にして、どここにもかしこにも吸血鬼の王として尊厳など見当たらないキリカではあるが、こちらの性格も間違いなくキリカであり、今の威厳のある立ち居振る舞い、そして、凶悪なアンデット としての攻撃防御の総合能力何よりどんな傷を負っても死なないからこその拠点防衛能力、この存在こそキリカの真骨頂であり、むしろ、温泉入って蕩けてたり、牛乳飲んで喜んでたり、真壁秋に相手をしてもらいたくてうろうろしている彼女の姿の方がどうかしているのである。
そして、その上空からキリカが忌々しく見つめる先には、D &Dに最近武者修行から帰って来た真々地 豪が、愛刀『柳月』を振り回して、文字通り敵をバッタバッタと倒している。
そして倒しながら、真々地は、
「そっか、ごめんな、俺、そう言うのわかんねーから、何色でも、それだけ可愛いかったら関係ねーかなって勝手に思った!」
この柳月、2mにも近い長さの太刀で、しかも厚さも普通の太刀の3倍ほどあるので、その刃の切れ味を覗くと、ほぼほぼ棒にも近い直刀である。真々地の身長は真壁秋とそう変わらないので、高校生男子としては小ぶりなタイプであることから、いやがおうにもその長剣はやたらと巨大に見えて、それを軽々と使いこなす真々地は流石に、D &Dの中でもトップクラス、北海道ダンジョンにてサムライを名乗る事を公式に許された存在、辰野や一心に並ぶ実力の持ち主だと言えた。
真々地が、全国つつうらうらの永い修行の旅において、手に入れたダンジョン由来でもなければ、歴代微水のモノでもなく、たまたま立ち寄った帯広市の近く、河東郡の社にそっと眠っていたものを借り受けて来た、歴史もわからないくらいの代物であるが意外に新しいとも言われ。一説には昭和初期の現代太刀ではないかと言う噂もあるくらいだ。
彼らは、ここで、藻岩山頂上、展望台に駆け上がってくる魔物に対して藻岩山展望台を拠点として防衛を行なっている。
そして、キリカは上空で、
「お前、私を可愛いって!」
と時間差で驚いていた。
「いや、美人じゃん」
「……ありがとう」
素直にお礼をするキリカであった。
じっと見る、そのサムライ少年、真々地の存在はどこかキリカの常識というかペースを狂わせる。そしてその言葉に偽りも無く、素直に思ったまま言っているから避けるも躱すもできなくて、受け止めるしかない。
そんな二人は必死に拠点防衛を行なっているのであるが、一体何を守っているのかと言うと、実際には守べきものは何もなく、今の現状に置いてここが拠点とかそんな事実もない。