第29話【新しい世代に高まる悪魔胸】
だから、ここで、一つの役目を終えようと、そう考える高橋でもあった。
高橋は、言う。間違いなくこちらの世界の発音で、言葉で彼らに提案する。
「お前達に、この首をやろう」
伝える内容に誤差が生まれない様に、高橋はその首をトンと己の手刀て叩いて見せる。
「え?」
と驚く少女達、そして異造子達。
咲と言われた少女が、まるで警戒もしないで高橋の足元に近づいて来て、首が痛くなるほど見上げて言う。
「死んじゃうって事ですか?」
まあ、殺せって言っているのと同義であるので間違えではないが、そこは殺せと言っていると捉えていいので、頷く高橋である。
咲は、再びみんなの元、つまり後ろに控えていた異造子と小雪の元に帰って行って、
「あの人、死んじゃうって言ってる」
すると、小雪は、
「違うよ、殺せって言ってるんだよ」
「同じじゃん」
「同じじゃないよ」
事もあろうか、彼らはまるで高橋を警戒する事もなく、輪になってワイワイと話している。まるで巨大な魔神である高橋に対して恐れる風もない。
そして、再び、高橋をそーっと見上げる子供達。
目が合うと、そこで普通に笑顔になる咲、そして小雪であった。
本来、巨大な魔物。巨人族の筆頭としての力を持ち、そして、底抜けの生命力を持つ高橋を名乗る魔物は、その純粋で無垢な視線に少し表情を躊躇う。
そんな様子から何かを悟ったのか、咲と小雪は、その表情をじっと見つめている高橋から視線をそらして、また相談し始める。
「悪い人じゃなさそう」
「うん、いい人そう」
そして、そこにいる柊に、
「この人、大丈夫だから、みんなは、他のところへ行っていいよ」
と呼びかけ、少しみんなで話し合いを行ったが、今度は死亡フラグでないと、確信する異造子達は柊だけを残して、他の場所へと向かった。
そして、異世界から戦いに、立場上ではあるが新世界征服を使命とする高橋と名乗る魔物は、そんな彼らを、隙だらけな彼等を攻撃する事なく、ただ、見守る様に、立ち尽くして見ている。
そして残った3人は、高橋に向かって、
「あの!」
と声をかける。
その中の咲が、
「首をいただけるんでしたら、私たちの勝でいいですか?」
とか言い出す。
一瞬、返答に困るが、その質問に対して元々、ここで最後を迎えようと思っていた高橋なる魔物は、
「ああ、好きにすると良い」
と肯定的な返事をする。
「じゃあ、降伏ですね」
と今度は小雪が言うので、
「そうだ、降伏する」
と返事をした。
すると残った3人は大喜びして、
その中の小雪が、
「じゃあ、もう、いいです、戦いは終わりです」
と、その終了を宣言する。
そして、小雪は言う。
「じゃあ、これから休憩場に案内します、真壁秋が、全部終わらすまで、そこに待機していてもらいます」
「大きいから、駐車場の方かな?」
「でも、おじいちゃんみたいだから、冷えたら可哀想」
と言って、急に高橋に駆け寄る咲は、サンダルの様な履き物をしたその巨大なローブから出ている高橋の足の指を、なんら躊躇する事なくペタっと触って、
「冷たい! 寒いんだ、温めないと!」
と言って、慌てる様に高橋に、の顔を見上げると、
「あ、顔もちょっと青いかも……」
ちなみに、悪魔種でもある高橋の顔色と体温は、常にこの程度の色と温度である。
「バックヤードから足だけでも入れてもらう? コタツみたいに」
と小雪が言うと、
ちょっと、先にアクセス札幌行って相談してみるよ」
と柊が駆けて行ってしまう。
「休憩場には暖かい飲み物と、簡単な食事もあるから」
と、咲が言うと、
「いっぱい飲むんなら、すぐ近くにセイコーマートの物流センターとかもあるから!」
高橋は、この世界を立場上征服しに来た巨人な悪魔は、そんな彼らの様子に、異世界の子供達と、新世界の子供達が共にしている姿に、そして、まさにその姿は魔物であり、恐ろしい姿を、まるで怖がる様子も見せずに接してくるその様を、未来の姿の一端を見た気がした。
「じゃあ、行くよ!」
と先導しようとする小雪に、
「そんなところにいたら踏んでしまうぞ」
と言う高橋。
「避けるもん」
「避けるもん」
と咲と小雪が声を揃えて言った。
その姿に、ついに堪え切れなくなった高橋は、まるで咆哮の様に大きな声を出して笑ってしまう。
「良き子供達だ」
もう、何も言うまい、そして思うまい。
彼らに任せよう。
そして、異世界でも指折りな第二位の位置にいる巨神と言われた悪魔は、新しい時代に向かって一歩、その足元をチョロチョロ走り回る彼らを踏まないように、歩き出した。
思う事は、
「こんな奴らに勝てるわけがない」
と、たった一言、意識もせず綻ぶ顔をして高橋はそう思うのである。