第117話【名は色を名字は臓物を価値は数にて表す者たち】
そんな中、角田さんは、忍者さんのその手の話はどうでも良いって感じで、角田さんが思ってた疑問を忍者さんに投げつけるように問う。
「お前の理想だの思想だのはどうでも良い、それよりこの現状はどうなってる? 本来お前らはギルドに協力して、このラミアを追ってきたってはずだ、なのに現れたお前の標的は俺達だろ?、前のヤツらにしても、迷いもんなく俺達の方を襲ってきたのはどういうわけだ?」
ああ、そうだね、確かにその通りだ。
だって、ラミアさんを討伐する目的、あの時点では僕らが|ダークファクト《ダンジョンから影響を受けた異常行動者》なんて判断できる時間ない筈なのに、現れた、渦な3人は、迷う事なく僕らを襲って来たんだよ。
しかも同じダンジョンウォーカーなのに命を奪う事に何の躊躇いも無かった。
これって、間違いなく組織立っての行動だよね。個人的な判断の時差なんて一切存在して無かったから。
だから、賢い角田さんは、まるで煽る様い言うんだ。
「なんだ、見られてまずい物でもあったか?」
すると、忍者さんは、正直な人なんだろうって思える様な発言をする。
「さあね」
ああ、そうか、言葉を濁すってことは、角田さんの今の一言が全てだったんだ。
わざわざ、マーカーのついた目標物を追って来てるんだから、もう誤魔化しようもない。
だから、忍者さんがとるべき行動を予想するのは容易だ。
その言葉を受けた忍者さんは、少し黙ってから、
「これ以上、今の現状については話せねえな」
これが返事だね。
つまり、彼の言う所の黒の猟団は、ダンジョンウォーカーである僕らを殺すつもりだった、そう行動してたってのは、完全なギルドからの離反って事なんだな。
だって、ギルドがそんな事をする筈なないからさ。
以前、葉山さんが行ってた、ギルドを信用するな、的な言葉もあったけど、これはここに適合しないって、それだけはわかるんだ。
じゃあ、まあ、この忍者さんはひとまず敵でいいんだろうね。フレンドリーに話てくれるのは、きっと、この人が僕らを舐めて油断してくれてるからなんだろうなあ、って思ったら、舐められるのも悪くはないなあ、って思ったよ。
で、忍者さんは背中の刀を抜きながら言うんだ、
「俺の名は、二十皮 烽介、青と赤の混ざる『鬼』の『町』にて『名は色』を『名字は臓物』を『価値は数にて表す者』、決して外に現れる事のない、戦闘士族の末裔だ」
どこか誇るように名乗りを上げてから、ニヤリと笑って言うんだ。
「そして、お前に初めての『死』を与えてやる者だ」
その短めの日本刀を向けて、僕をジッと見つめるその目が刀の切っ先のさらに先端についてるかの様な、見事な構えだったよ。
その時には、さっきまでのフレンドリーな感じはどこへやらだよ。完全にスイッチが入った殺戮マシーンみたいな顔になってた。
当て付けて来る、強烈な殺意。
そして、その忍者さん一人が出す殺気は、彼を中心に、まるで、北海道の真夏の風鈴を揺らすくらいのそよ風のように、僕は感じていた。
確かに、人が発生させるそれ、だからダンジョンウォーカーの殺意と、モンスターの放つ害意、だから僕らにとっての『遭遇感覚』とは違うなあ、って改めて感じてたよ。
うん、まあ、わかりやすくていいね。
忍者さんは、言うんだよね、楽しそうにさ、
「蒼様に導かれる俺たちにとって、戦場に身を置くことこそが目的だ」
本気で殺る気満々な忍者さんの決して脅しなんかじゃない殺意に気迫を受けながら、僕は思うんだ。
なんだ、母さんより随分マシじゃないかってね。
だって、あの圧倒的な存在感には未だ勝てる気なんてしないからさ。
本当、鼻歌とかでちゃうくらいな、そんな気分だったよ。