第27話【新しき世代と古き世代、共に大谷地流通センターへ】
まるで、その姿は巨大な獣の様、そして人。
種類にするなら、類人猿の類。
体毛なのか髭なのか、顔の一部のみに地肌を晒して、その体の大半をまるで夜の闇の様なローブに覆っている。
吐く息が大きな嵐の様に路面の砂塵を浚って行く。
ここは、先ほど黒き集刃達がいた江別市から、少し離れた、北海道の物流を担う流通センターのある大谷地という白石区の一角にいて、イベント会場として有名なアクセス札幌等があり、なお、セイコマートの物流センターもあることから、主警戒区域として重要視されている。
先ほど、この先にいる黒き集刃の鮫島が感じた大気を割るような振動の出元は意外にも近く、大通りではなかったのではあるが、確かに、そこに出現した存在は、『強さ』という、空気を読む鮫島の判断は間違ってはいない。
確実にこの魔物は驚異的な存在であり、特に一体で現れる現状において、警戒せざるをえないと言えるだろう。
その毛むくじゃらの表情の中には人と似通う表情をして、高い頭の位置からこの地を覗き込む様に見ていた。
異世界でも彼は温厚な種族であり、位も相当に高い所いて、他を導く、そんな役目をになっている。
本来であれば、自分の住む異世界からこの地に移り住む事に、平和的交渉を持って進める意思を持っていたが、彼の立場、そして取り巻く環境がそれを許すことはなく、自らの意思に反してこうして、異世界の侵略組として、この地に降り立っている。
言ってみると、どこにでもある社会の軋轢の中の犠牲者ともいえる。
それでも、彼はその地位としての誇りを持っていた。
だから、意思とは関係なくその義務を果たす覚悟を持って、ここに顕現したのである。
小さなビルに届きそうなその巨大さに、獣の姿。
そして、初めて見るこちらの世界。
彼は、驚き、また、喜んでいる。
彼の行い、つまり彼の作戦は成功していた。
それは、すでに滅びを開始している異世界側のの戦力を巨大と偽り、新世界に対して十分な準備をさせる事、そしてその上で、異世界が敗北して後に、こちらの世界に、条件付きで取り込まれる事。何より、平和を愛する異世界の種が新世界で生き残って行く事が、彼らの最終的か終点となる目的なのだ。
敵対者は滅び、異なる世界を受け入れる者だけが生き残る。
それはかつてから、異世界と新世界の関係性でもあるのだから、これ以上の結果は望むことはない。だから、こうして今、この地に降り立つ自分が、この身が礎になろうと、それは我々異世界の種族の新しいあり方としての形なのだと、捨身の覚悟、いや、自身を犠牲に置いて、他の存続を望んでいるのである。
ちなみに彼は、異世界の人物として、こちらの世界の位で言う所の苗字、『高橋』を名乗る事を許されているほどの実力の持ち主である。
現在、多い姓としての全国ランキング3位である。
彼らの勘違いしているところの、その姓が多いほど強いと言う図式からすると
異世界側として実力が第3位ということになる。
なお、事実上の1位である『佐藤』の姓は、こちらの世界にすでに配置されているので、つまりは異世界側2位ということになる。
ちなみに、彼が偽りの情報を流して、こちらの防御力を上げようと画策していた実行者であるところの、彼の部下は、言うまでもなく、あの海賀商事にいた『木村』である。
そんな、人の良い魔物、高橋は、今、札幌の流通センターにいて、自分より小さな、子供達、つまりは画策され作られた勇者達に囲まれて、決して表情に表すことなく、喜びを胸にしていた。
その心境を説明するなら、まおるで孫達に囲まれた好々爺の心境である。
おっかなびっくりと言った様子であるが、彼らがどんどん自分を取り囲んで行く。
小さな戦力。
それを集結させている。
手に持つ剣は、みな『魔剣』だ。
こちらの世界の種ではないと生み出せない、自分達、つまり異世界側の、それも『造形』を司ることが出来る、『刃鬼』の中でも特別な種族だけが作り出せる代物だ。そして同時に、自分すらも倒せる剣だ。