第23話 【広島市防衛ボランティア 今日花と真希】
侵略を目指し、この北海道を新たな領土にしようとしていた、彼等は皆、その瞬間に何が起こったのか理解できずに、また、その後、自分たちを同じ様にあのか弱そうな少女の体躯に騙されて、襲いかかっては吹き飛ばされて行く後から来た自分の仲間の姿に、自分の身に起こった事をようやく自覚するのである。
もちろん、再戦を挑もうとは考えない。
そもそも、実力が違う、と言うか戦力そのものの質が違う。
結論にたどり着くのは、「あれは無理だ」になる。戦いに明け暮れ、自分達の力を異世界に示して来たからこその彼等だから理解し確信している。
彼女達のその力を、その戦力差を自覚する。そして、加減されていた事も、手を抜かれている実力差も理解した彼等は、その場に座り込み、次から次へとやって来るは倒される仲間もそれに習って、大人しく、不平も不満も無い顔をして座り込んで行く。
彼等にしてみれば実力差で負けているのだから、彼等の様な所謂、武人としての本領は発揮できたわけだし、勝って征服、負けて虜囚は、まさに望むところでもある。
今日花と真希を中心に、次々と、まるで、野外のライブ会場で、ユニットを組んだ人気アイドルの公演を見ているかの様に、その場所は北広島市ボールパーク公演の様相を見せていた。
もちろん、歌も踊りも無く、会場に響くのは今日花と真希の攻撃音と、時折響くのは、魔物達の枯れ行く様な悲鳴と、慣れて来た魔物達がその様子を見ながらあげる驚嘆の声と言った殺伐とした物だけであった。
そして、今日花と真希は呟く。
互いに聞こえる様に、はっきりと呟く。
「ホント、あんたを倒せなかったのが心残りよ」
「今、私もそれを考えていたべさ、お前だけは倒しておくべきだったべさ」
互いに顔も見せず、見ることはなく、同じ表情になる。
「何を笑ってるべ?」
「笑ってるのはあなたじゃない」
それは互いに認める所だった。
「まあ、全力でぶん殴って、死ななかったのは、お前くらいのもんだべさ」
と言う真希に、
「本気で斬りにいって斬れなかったのはあんたくらいよ」
と今日花も言う。
彼女達は思う。今にして思えば不思議な価値観を共有している事は今更否めない。
それは互いに消し去る事(物理的に)のできなかった存在感を、今はこうして認めている。
どれだけ目の前を(実力を持って)クリヤーにしようと、そこにある存在。
消せない存在。
それはまるで人間関係において、長い時を経ても残る友人と言うかまるで親友の様な関係にも似ているかもしれない。
大して気に入っているわけでもない家電製品が、意外に長持ちしてしまった感じに似ているかもしれない。と、二人は同時に思った。
そんな二人の前に、まるで山の様な巨人が降り立つ。
「我は最強の戦力にして、貴様らが言う所の『異世界』の最大戦力」
今日花と真希のたった二人に倒された、この場所を見て降りて来ているのだから、相当な実力者なのだろう。
「最強かあ、おっかねえべさ」
とニヤニヤ笑いながら真希が言うと、
「ホントね、だから、早く倒してしまいましょう」
と、ちょっと迷惑そうに今日花も言う。
異世界からの、最大な武闘派、そして、この北海道を征服しようとする存在達。
懸念されていた、最大勢力は音も立てずに、たった二人のか弱い女子により、殲滅全滅させられて整理整頓までされて行く。
そんな真希は呟く。
「これで、アッキー達も動きやすくなったべ」
「大丈夫よ、私の子供だから、一番救われうべき人の為に、もう動いているわよ、きっと」
と今日花がまきに言うと、
「だべな」
と言って、既に倒して最大戦力が静かに正座して行く様を身もせずに、胸に熱いものが込み上げて来る真希でもあった。
「ほら、目から汚い汁を出すのは全部終わってからにしなさい、私たちが育てた子供達を信じるのよ」
と真希にハンカチを渡しながら今日花はい言うと、真希は無言で、それを受け取り、さらに無言で今日花の脇腹に一撃を入れる。
それが戦いのゴングになった。
もう、降りて来る事のない敵が、この時点て、互いが最大の敵になった様に、厳かに、そしてゆっくりと、確実に、戦いが始まる。
現役の頃から数えて通算1100回目の対戦。
だから、きっと、今日も決着がつく事もない。
そのデタラメな互いの攻撃力を無視すると、まるで女子高生が戯れている様に、無理すれば見えない事もない、そんな北広島市、ボールパーク建設地であった。