第21話 【広島市防衛ボランティア 今日花と親友】
大通から離れ、札幌からも飛び出し、その隣接する都市、北広島市に工藤真希はいた。
ズズンーっと、その市街地に降り立つ気配を目を凝らして見つめて、
「あっちの方に結構歯応えのあるの降りたなあ」
と呟くと、
「じゃあ、行きなさい、ここは私一人で十分だから、行きなさい」
と言われる。
「冷たい女だな、お前は昔からそう言う女だよ」
と、決してギルドの仲間に見せる事がない表情をして、つれない隣人にそう呟く。
その人物は、『朧烏』を一振りして、その剣に溜め込まれてしまった、破壊の因子、爆発するその力を、大気に開放する。まるで巨大な炎の様に、隣の真希を巻き込みそうになりつつ、空にはためき溶ける様に消える。
「あぶねえべさ、ティママとのブレス並だべさ、気を付けろ」
と言う、マキを無視して、
「普通の剣を持ってくればよかったわ」
と呟く彼女もまた、家人に決して見せる事のない不平不満をその表情に乗せて、愚痴を零す。そしてさっきから自分に向かって、どうでもいいことばかりを語りかけて来る真希に向かって、
「だいたい、あんたがなんでこっちに来てるのよ? ギルドに帰りなさい」
とまるで八つ当たりに様に言い放つ。
「そんな事言うなよ、もう結構ぶりじゃないべかね、今日花、ルー子を預かってくれてありがとうな」
って言う。
普段はおっとりしている、夫が留守がちな真壁家における大黒柱は、真希を横にするその顔にはどこか昔の幼なさが出てしまう。普段の今日花にはこんな顔、大人としての威厳のある今日花はどこにもいない。
「別に、あんたの為じゃないわよ、いい子よ、もう私の娘だから」
と言う今日花に向かって、
「じゃあ、アッキーこっちにくれよ」
「いやよ」
「なら嫌だべ、ルー子はうちの子だべ」
と言ってる最中、上空から巨大な姿な半人半獣の姿の魔物が襲いかかって来る。
それを、飛び上がる事なく、綺麗に今日花と並ぶ真希は、片手でいかにも適当に殴り上げると、そのままその魔物は空に吸いこまえれる様に消えて行った。
「相変わらず、デタラメな力ね、本当に馬鹿みたい」
「お前に言われたくないべさ」
ここは、現在建設中の北海道ボールパーク。北広島に位置していて、建設が完成すると、北海道はこれで二つ目のドーム型球場を持つ事になる。
その大きな空き地で、今日花と真希が、二人並んで、その敷地の中心に立っている。
と言うのも、大きな魔物は、それなりの規模の着陸地を欲しがると言う予想の元、すでに何体か出現し、この今日花と真希に挑戦して来た巨大な魔物は早々に決着を付けられて、負けた魔物は既に今日花の周りを円を描く様に正座していた。
「ここから36号線使って、札幌に北上されてたら、割とヤバかったかもな」
って言う真希に、
「だから私が来たのよ、ここは私一人で十分だから、もういいわ、あなたは向こうに行ってて」
と取り付く島もない今日花であるが、
「そんな事言うことないっしょ、最後くらいは一緒に戦うべさ」
と真希は言う。
「なら、あんた、あのベチャ〜ってした、変な形に戻って、まだ降りて来る奴らいるから、変な汁滴らせて飲み込みなさいな、でも、この辺汚してはダメよ」
「誰がベチャ〜ってしてた? 汁ってなんだべさ? そんな姿一度もした事ないべさ、適当な事言うな!」
言われのない姿を適当に中傷されて、珍しく真剣に怒る真希であった。
そして、
「『マキュラデウスマキナ』だ、そんな正体不明なゲル状なもんではないべさ、向こうの世界でも、こっちでも、『神』の名で呼ばれることもある尊い存在だべさ、謝るべさ、私に謝るべさ」
と今日花の顔に顔を突きつけて、怒り狂う真希。
「ほら、変な汁飛んできたじゃない、汚いなあ」
と言う今日花に、
「これは唾だべ、張りを失ったババアの肌には丁度いいべ、美容の効果もあるからありがたく塗り込めておくといいべさ」
「誰がババアよ!」
「まごうことなきお前だべさ、ババアは今日花だべさ」
「私もあんたの呪いで歳取ってないから、それを言うなら、あっちとこっちで、足掛け何百年生きてるのよ、このロリ老婆!」
その瞬間、プチンって何かが切れる音がする。いや、斬れたのは真希の中の堪忍とかを貯めとく袋の口を閉じてる紐だ。普通の人間なら、ここに触れる事すらできない。