第20話【いざ、尋常に勝負!】
僕と九首さんは、変な感じで見つめあってるけど、ようやく、その大樹な銀杏の木から出て来て対峙してる格好になる。
「用があるなら言いなさいよ!」
って葉山が言うんだけどね、まあ、ここは黙って、って手で彼女の口を制した。
葉山にしてみれば、あの時、バルカを取りに行った際に出て来た、卑怯者な訳で、ちょっといらっとしているけど、僕には一つの推測があったんだ。
それは、ここに蒼さんがいない事。
正確に言うなら、秋の木葉の人達、だから、多紫町関係者が一人もいない事。
いないって言うのは言い方が違うってたかな、いる、でも姿を表してない。
つまり、ここは九首さんが一人で僕に対して行わないといけないこと、言わないといけないこと、しないとならないことっていう現状なんだね。
逃げるも、進むも全部見ているって感じかな。
だから、ここに九首さんが一人でいる事に意味があるって感じていた。
まあ、異世界も未だ札幌上空から、動く気配を見せないし、ここは時間もある事だから、待ってみようって思うってると、
「俺は、お前と戦いを挑み、勇気を示さないといけないことになった」
ボソって言うんだよね。
「か、家族が、禁止事項を侵した、それは俺の為だ」
ああ、そう言えば、以前、僕、多紫町で、この九首家の人達と戦った事あったっけ。
九首さんのお姉さんが、小学校の先生してた気がした、そしてお祭りバトルロワイヤルの時に、ご家族ぐるみで戦ったっな、確か。
「だって、そう言うお祭りだったじゃん」
って思わず言う僕に、
「いや、ダメだ、俺はお前に禍根を残している、その最中にどんな事があろうと、その直系血族が手を出してはダメなんだ、俺たちにそんなつもりはなくても、周りがそう判断する」
まあ、詳しく聞くつもりもないけど、九首さんの家が非常にまずい事になっちゃうって事でいいのかな? 僕と戦わないと。
「頼む、狂王、俺と本気で戦ってくれ」
「いいよ」
僕の二つ返事に、びっくりした顔してる九首さん。
いやあ、だって、そうしないとあの小学校のお姉さんや、人の良さそうな両親やら、おじいちゃんにおばあちゃんまでひどい事になるんならさ、止めないと、協力するよ。
戦うなんて特に難しいことでもないし、って思って、
「いいよ、どっからでもかかっておいでよ」
って言ったら、
「おお!」
って暗い顔してた九首さんも開き直ったかの様に明るい顔して、
「俺は、九首丹、九首家の次期党首にして、多紫町の北北東を守護する血族」
って言う。口上って言うのかな? 黙っって聞く。
「北海道魔王、真壁秋、いざ尋常に勝負!」
そう言って飛びかかって来る。
今日は剣だけで来るみたいだ。魔法は使わないんだね、って言うか、これって多月の剣技だから多紫の技に動きだね、基本に立ち返ったって事なんだろうか?
僕は防戦するんだ。カンカンと、時計で言うなら、4時と、11時以外の方向からくる斬撃を受けてる。
ああ、これって、多紫町の小学生とかが振るう斬撃の軌道だね。
単純で、単調な攻撃。
でも、なんだろう、雑さが無い。
振るうその顔も、どこかスッキリしてる。
「俺、結構、自信あったんだ」
って言う九首さん。
「多紫の町では一時期、『神童』なんて言われてる時期もあったんだぜ」
あ、真上から来た、綺麗な刃の輝きが残像になって残る。早さも申し分ない。
「しかも、魔法のスキルもあるって言われてよ、だから、もう、町の奴らとは組まないで、自分だけでこのダンジョンに挑もうって思って、色々やってみた」
悔やみなのか、それとも単純な思い出話なのか、僕は九首さんの剣を受けながら聞いてた。
「でもさ、深階層に入ってからはびっくりだったよ」
九首さんの声が上ずる、とても興奮しているみたいだ。
「あいつら人間じゃねえよ、斬れないし、動きは追えないし、攻撃を躱せないし、受けることもできなかった」
いや、そうでもないかな、九首さん、自分を卑下してるけど、この実力なら、深階層常連でもいいかも、でも、トップクラスになら手を余すかもね、って思った。
辰野さんとか一心さん、この前の真々地さんやら北藤さんは、確かに他のダンジョンウォーカーとは一線を画してるからね。
一度離れて、今度はその身に体重と移動の速度と力を乗せて、横なぎに払って来る。
ちょっと浅いかな? いや、でも連撃を考えると速度を殺さなくて丁度いいかも。
「だから、今度は魔法スキルを伸ばしてやろうと思ったんだ」
と言ってから、
「でも、そこにも化物みたいな姉妹がいた、俺程度の腕前なら歯牙にも掛けないってツラしてたぜ」
ああ、此花姉妹の事かな……。