第19話【九首さんの戦う理由】
田中さんに結婚を承諾してもらった土岐とリリスさんの、極めてプライベートな話し合いは、その後も続いて、悪いけど、その続きはここ大通公園から離れてやってもらった。
駅前方面に歩いて行ったから、レンガ庁舎のあたりでやってるかもしれない。
仲良くやるといいよ。
雰囲気だけど、土岐と田中さんって、きっといい親子になるんじゃないかなって思うから、その辺については心配してない。
で、札幌の空をくり抜いて出現しようとしている異世界は以前と同じ姿で、今ひとつ、出現が進んでないってか、硬直してる感じがする。
で、そんな僕は先ほどから熱い視線というか、生熱苦しい視線というか、そんな物を浴びているんだけど。
地上を吹き荒れる乱気流も先ほどよりもずっと大人しめになって来てる事を除くと、至って平和な大通公園の道路側の大きな銀杏の木の影から、覗いてる人がいる。
きっと何かを言いたくて、何かを訴えかけようとしているのはわかるけど……。
さっきから僕も、その正体を知りつつも、気を使ってそっちは見ないようにしていたんだけど、その、雰囲気というか、気がついて欲しいってったかかまって欲しいアピールがもう、滲みでてて、仕方ないなあ、って思うからそっち向く僕だよ。
するとその人物は慌てて顔を引っ込める。
その人物が、何をしたくて、僕に何を言いたいかなんてなんとなくわかるからさ、もう時間とかもったいないからさ、こっちから声をかける僕だよ。
「何か用かな? 九首さん?」
流石に顔を覚えないって言われてる僕でもこの人は覚えてるよ。
ガッツあるなあ、ってか懲りないなあ、っていうタイプでは僕の中では代表格になっている人。
元クロスクロスで、元黒の猟団で、元D &Wで、なんか『元』の多い人だかけど、根本的には、蒼さんと同じで、多紫の町の人。
多紫町では、彼の家族にも会ってる。
家柄でい行くと、結構中心的な家系な人じゃなかったかな?
で、ダンジョン内でいろんな人の手先になって、僕に敵対して来た人。
僕の横に来ていた葉山が、
「懲りないなあ、また来たんだ」
って言ってた。
「真壁、私がやる?」
って聞いてたから、
「いや、僕に用があるんだと思うから」
と言って、僕は銀杏の木の影から出て来た九首さんに向かって、
「そうでしょ?」
って聞いたら、こちらに視線を合わしずらそうに、なんか言い始めた。
「い、忙しいところ、わ、悪いが、お、俺に付き合ってもらおう」
その姿を見ると、片手に剣を持って、ああ、なんか以前の杖やら、バスタードソードやら、なんてのと違って、これは何代目かわからないけど、微水様の物だなあ、って片手剣を持ってる。
あれ、前に初代微水様の言っていた、『軽鴨』だね、何代目かの微水様か知らないけど、僕の剣にそっくりな形。だからとてもバランスがいいね。
以前、蒼さんに聞いたけど、多紫の町に男の子が生まれると、そりゃあもうお祭りみたいな騒ぎになるんだって。
で、本来、町を旅立つか、成人となることで、与えられる微水の剣が、誕生と同時に与えられるんだって。
それだけ喜ばれるんだって話で、期待もされる。
だから、九首みたいに勘違いする奴もいて、対した実力もないのに、他の多紫の人間より自分の方が価値があるって思うんだった。
確かに男子の出生率は一桁を割るくらいだから、男の子だってだけで、大切にはされるんだけど、だからこそ厳しく育てられるんだけど、この九首さんの場合は親とか一族が甘えさせてしまったようで、こんな有様になってしまったらしいんだ。
もちろん、それは将来への期待を含めたって意図もあって、甘やかされたからと言って、全員がダメになるってことでもないし、厳しくしたからと言って、その子が親の期待通に行くなんてこともないし、僕も、僕自身を含めて、ダンジョンを通していろんな家庭を見てるから、一概には言えないよなあ、とは思うものの、ここで言えるのは、ここに立つ九首さんは、どうもうまく自分の能力を伸ばせなかったんだって、そう捉えている。
結論的に言うなら、結局、全ては自分自身の問題であって、環境なんて見た目に大きいだけで、それが自分の方向性を決定してしまうものではないと言うことだと思う。
昔の様な、情報的に閉鎖されてる世界でもないし、ダメなら、ダンジョンのあるこの北海道の環境は様々な子供を受け入れてくれる。ってちょっと特殊だけど逃げ道だってある。何より、抑圧では無く、甘やかされてるんなんて、言い訳にもならない。