第17話【土岐、リリスさんを引き連れて登場】
苗字って、そんなんじゃ無いから、多い少ないは関係無いから、って言いたいけど、言ったところで意味もなさそうなので、黙って、その田中さんを見つめていると、
「真壁!」
って急に後ろから声がかかった。
振り向くと、そこに土岐がいて、だからリリスさんもいる。
確か、土岐は今の段階では、ギルドに詰めていた筈。一応、遊撃部隊として動いてもらうつもりでいたから、土岐は器用だから、どんな所でもそれなりに戦える奴だから、その都度、戦力が薄い所を動いてもらおうって思ってたんだ。
の筈の土岐、普通に出て来て、しかも、いつもの鎧って感じじゃなくて、どこかこぢんまりとした、フォーマルな感じ? 儀仗用ってのか? そんな感じで、ついでに髪型とかも小綺麗にしてる感じが好印象だった。
その土岐が、僕に、いやこの大通公園に響く様に言うんだ。
「ここは俺に任せてくれ!」
そして、その瞬間だった。
今までの、ここに田中さんが現れた時とは比べ物にならない程の、まるで山か大陸かの様な大きなプレッシャーが、田中さんから吹き出して来る。かつて無いほどの大きな、そんな衝動。
普通の人なら対峙するのも難しいだろう。
そのくらいの大きな迫力だ。
で、ここまで来て気がつく。
あれ?
おかしいな、遭遇感が皆無だ。
うん、凄い、迫力。
でも、敵対心とかないってか、敵意や害意ならさっきの君島さんの方があった。だから紙ゴーレムよりも無い、って皆無。
これはどう言うことなんだろ?
と混乱する僕の横をすり抜ける様に、土岐とリリスさんは前に出て、その巨悪魔である田中さんの前に立つ。
驚いたのは、田中さんの簡単に間合いに、その攻撃範囲に入って行ってしまった事。
いや、まあ、相手は悪魔なんだからさ、魔法とか、色々あるだろうけど、それでも直接、その巨大な体により攻撃が来るところには、流石に警戒じゃない。
でも、土岐の奴、そんなの全く考えて無いみたいで、リリスさんと共に、
ちょうど僕とその田中さんの中間くらいで止まって、その田中さんを二人して見上げる。
リリスさんが一緒とはいえ、度胸あるなあ、って思ってたんだけど今更気がつくけど、土岐の奴、凄い緊張してる。
こんな緊張してる土岐は初めて見たな。
流石の僕もここは助けようかな、って思うんだけど、葉山の奴が、「待って」って言うんだよ。
僕はびっくりして、葉山を振り返ってみるんだけど、
「口を出してはダメよ、ここは見守って」
って何かに気がついた様に言うんだよね、もうその顔は『ああ』って何かを納得してたみたいに、合点がいった様に、若干期待に胸膨らませてる感じで、どこか高揚してる感じの葉山がそう言うんだ。
いや手は出そうと思ったけど、この時点で口は普通出さないよ。
そんな事を言い返そうとしていたら、ついに土岐が動いた。
構え? つまり攻撃への構えなのかな?
いや、でも、僕、こんな構え知らないなあ、って、もちろん僕は僕以外の戦闘スタイルなんて詳しくも無くて、こんな形もあるのかもしれないって思って、それでも、その姿勢から、あれだけ体格差のある相手に攻撃なんてできるのだろうか? って懐疑的に見てしまうんだけど、そんな形を、姿勢を土岐はとったんだ。
後ろの葉山はなんか息を飲んでるし、手を口に当ててるし。目がキラキラしてるし。
流派とか、スタイルとか、そんなの知らない僕にもわかるよ。
土岐は、その田中さんに向かって、綺麗に正座したんだ。
以前、リリスさんに向かって、正座からの流れる様な土下座を見ているかなのか、土岐の正座って綺麗だよなあ、って、今感心する事でも無いけど、そんな事を考えてしまう。
その土岐に準じるリリスさんも寄り添う様に正座していた。