第16話【序列第4位の悪魔現る】
空を割って、出現しようとする異世界の大陸。その上空から降り立つ黒い点はどんどん大きくなって行って、ついに僕の目の前に、威風堂々とした姿で降り立った。
多分、ダンジョンで言う所の悪魔種。
それも相当上級な奴。
エルダー、じゃないなハイエイシェントの上を行ってる迫力がある。
よかったよ、こんなのが、住宅地の方に落ちてくれなくて。
生産勇者の皆さんなら、ちょっと想像したくない事態になっていたかもしれない。
以前、中階層で、金色宝箱騒ぎで出て来たグレーダーデーモンってのかな?
その巨人な悪魔くらいの体躯で、遥か僕の頭上にある頭からは鋭い眼光がさっきから僕を見つめている。
4丁目ゲートを背にした僕を悠然と見下ろし、巨大な悪魔はただ佇む。
大通公園ある銀杏の並木から頭一つ飛び出してる巨体に、身体つきは普通の人の形をさして変わらない、何より上品なローブの様な衣服を見になとっている。
悪魔種ってのはその頭上にあるツノでわかる。
あれ? あのツノの形何処かで見たきがするけど、まあ、悪魔種のツノって概ねあんな感じだからね、でも、どっかで見たことあるなあ、なんて僕の頭の片隅から離れる事はなかった。
面構えなんて初老のダンディな感じで、なかなかの美形なおじさんだ。風格もある。
でも、どっかでこの顔、ってかこの人にと言うか悪魔に似た顔見た事ある様な無いような……。
どことなく変な既視感を感じてる僕に対して、巨大な悪魔は悠然としている。
それは余裕なのか、それとももっと違う思考なのか悪魔の思考ってのはわからないけど、でも、この目の前の悪魔は今までダンジョン内で対峙して来たどの敵とも異なる尋常ならざる気配を隠すことなくダダ漏れにしていた。
強なあ。
僕は率直に思う。
悪魔種って、特に大きさなんて見た目に反してってのが割と多いんだけど、今、空の異世界から直接降り立てホヤホヤなこの悪魔は、今まで見て来たどんな種類の悪魔よりも危険な感じがした。
チリチリとその視線から漏れる異様な気配。警戒とも攻撃とも違う、何かの焦燥なのだろうか?
よく、悪魔種って、その力が大きさとか直接関連しないって言われてるけど、僕の目の前に立つ巨大な悪魔は、それに該当しないな、どちらかと言うと、溢れるばかりの力を体に押し込めたらこの大きさになったって感じがする。
普通に強いな、この悪魔。
って確信をして、いよいよ接触、戦闘開始か、って思ったら、その悪魔種は急に口を開いて言うんだ。
「我は、『田中』を名乗る事を許された、権威ある種族にして、異世界よりこの地に顕現した者」
とか言いだす。
うん、田中。
この悪魔、自分を田中って名乗った。
凄い、立派でさ、どう見ても田中なんて和名な要素とか一欠片もなくてさ、だからこそそのギャップに、普通ならさ、ここで、ガクってなるところじゃん。
何言っってるんだ? ってなるじゃん。
でも違うんだよね。
僕らは学習してるんだよ。
僕は後ろにいる葉山を見ると、葉山も既に悟った様に頷いていた。
そうなんだ、彼ら異世界側の言う所の、僕らに取っての苗字って、多分、『位』に相当しているんだよ。
で、その苗字に関しての位の上下ってのが、その苗字を持つ人のの多い少ないで決まって来て、その苗字が多ければ多いほど、その悪魔と言うか異世界の人の位は高いと言うことになるんだ。
つまり、以前、海賀の本社で会った木村さんって、確か、多い苗字ランキングが17位くらいの人だったから、この悪魔は田中って名乗ったので、えーっと結構多いよ、この苗字、だからきっと強いし偉い。って適当に納得しようとしてたら、葉山がスマホで調べてくれて、
「4位よ、真壁!」
って教えてくれた。
そっか、じゃあ相当な物だね。
僕らは改めて警戒した。
そんな僕らを見て、田中と名乗る悪魔は微笑を見せて、
「貴公が、この世界の王か?」
と聞いて来るから、ちょっと考えて、まあ、今はこの世界の代表みたいな者だし、一応、北海道では魔王してるから、頷くと、
「名を聞いておこうか」
と尋ねられて、
「真壁秋です」
って答えたら、
「聞かぬ名だな、順位は何位程度だ?」
って聞いて来るから、絶対に異世界の人達って苗字について酷い勘違いをしていると、そう確信できた。