第15話【もう、僕らは、なにも失わない】
こうして対峙すると、威圧している感じなんだけどなあ、普通に強そうなんだけど、会うのはちょっと久しぶりで、こうして対峙と言うか正々堂々ってのは初めてな気がする。
その、イケメン長身乱暴者な君島さんが、その存在をすっかり忘れていた僕の前に立つ。
君島くんは僕に言うんだ。
「すまなかった」
その長身を二つに折って、綺麗に90度のお辞儀をしてそう言った。
いや、別に君島くんにお礼をされる様なことはしてないけどな、って思うんだけど、それでも、いい大人が僕みたいな高校生に、涙を流しながら、あ、鼻水もたらしてる。汚いなあ、で、ガチに感謝してるんだよ。
で、感極まってってのか、それとも単純に人前できちんと話すのが苦手なのかわからないけど、カミカミで、言うんだ。
「お、お前、ずっと春夏を、よ、蘇らすために、頑張ってくれてたんだな!」
とかなんとか。
で、
「あ、ありがどう!」
って言うから、別に君島くんの為じゃないし、やめてほしい、本当に、男の、それもすっかり育った大人の人にこうして目の前で泣かれてるのって、ガチに引く。
対応に困る。端的に迷惑だ。どんな顔していいのかわからない。
「お、おれ、勘違いじてた、お前はもっとやな奴で、春夏を独り占めしようとしてるって、そう思ってだ」
泣きながら言うから濁点多いなあ、で、折角のイケメンなんだけど、泣き顔汚いなあ。
その顔が、クワって感じに目が見開いて、君島くんは僕に向かって、持っていた木刀を僕の顔の近くに突き付けて言うんだ。
「で、でもな、これとそれとは話は別なんだ」
大きく、涙を拭って、そして、何かを言いかけて嗚咽して、から鼻を噛んでから、
「俺はお前を倒して春夏を手に入れる!」
とか言い出す。そして、その後ろの方では、春夏姉が割と距離を取ってと言うか明日葉さんと一緒にこっちを見ながら、
「秋! 手を抜くんじゃねーぞ」
とか言ってる。凄い他人事みたいに言ってる。
もう完全に面倒事をこっちに押し付けてる感じがしてならない。
「私を嫁にしたい奴は、秋を倒してからにしろって、今後も言うつもりだからな、何度でも挑戦は受けるからな、秋もそのつもりでいろよ」
隣の明日葉さんはキャーキャー言ってるし、「じゃあ春夏は秋ちゃんよりも強い人でないとお嫁にいかないのね」って言ってる。それだと、春夏姉のお婿さん、現時点では僕の母さんか真希さんになっちゃうからね。
そして、目の前の君島くんが、「チェストー!」って叫んで襲いかかって来た。いやいや君島くんは札雷館であって、示現流とかじゃないでしょ? ってツッコミを入れつつ、見上げる空に、異世界は依然として空を破るものの出現の範囲は変わってなくて、思っていたよりも時間がかかってるなあ、なんて思う僕にはちょっとした懸念と、異世界側の思惑を同時に思い浮かべていた。
きっと、速度を緩めてる。
この地表に降りる落下速度を調整しているのかもしれないと、これは根拠もなくそう思えたんだ。で、その最中、君島くんの必殺の一撃(ゴブリン白帽子×0.7倍)を半身ずらし躱してしまうと、そのまま、僕の後ろいにいた葉山の前で派手に素っ転んで、葉山からも「大丈夫ですか?」なんて聞かれていたけど、君島くんさん本人は、
「くそう、今回は俺の負けだ!」
って言ってから、
「また挑戦するから、挑戦させてくれ!」
って、勝ったつもりも、負けさせたつもりもない僕に言うからさ、まあ、避けるだけなら、ってつもりで、
「うん、いつでもおいでよ」
って言ったら、君島くんは、水分の多い目、鼻、口がとてもいい笑顔になってた。
毎日家に来る怒羅欣の人が一人多くなった感じかな?
そんな事を考えてる僕の目に、その異世界から、空中に浮かぶ島の突端のところから一際大きな点が、地上に向かって降りようとしてるのが見えたんだ。
僕が一瞬でもそんな表情なんて見せてないのにさ、春夏姉は、
「ほら、邪魔になる、いくぞ!」
って君島くんを連れて、明日葉さん率いる札雷館を連れて行ってくれた。
その春夏姉、
「じゃあな、秋、しっかりやれよ」
って言うから、
「春夏姉も」
って言って別れた。
石狩方面は安心できそうだ。
僕は大きくなる黒い点を見つめながら、なるべくならここを戦場にはしたくないなあ、って思ってたけど、不回避な感じがして、異世界からのそれなりの実力者を待つ僕だったよ。