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第127話【白い夢、いつも見る夢】

  どこか真っ白い空間。


 誰かに気を使われて、僕は椅子……、の様なものに座って、誰かを待っていた。


 フワフワな座り心地。まるで雲に腰掛けてる様。周りの景色は何処も遠く、先なんて見えない。でも、僕は何を不安に思う事なく心の底から安心している。リラックスしてる。


 ああ、そっか、これ夢だね。


 僕が見ている夢、と言うかいつも見せてもらっている夢。


 いつもどおりに、リラックスして、そして落ち着いたら隣を見る。


 「秋くんおはよう」


 って言われて、


 ああ、そっかきっと今の現実では明け方近いのかなあ、って思って、そして、僕の微笑みに今日も会えた。


 そうなんだよね、こうして僕、夢の中では結構春夏さんに合ってるはずなんだけど、でもいつも起きると忘れてしまうんだよね。


 だからだろうか、僕はその微笑む春夏さんを見て、その姿に笑顔を、今度こそ忘れない様に、記憶に刻み込む方法を考えるんだ。


 ほら、夢でも会えたら嬉しいじゃない。


 だから、それがたとえ夢の中だとしても忘れるのは悲しい。


 すると、僕の心の中なんてダダ漏れしているみたいで、


 「ここは秋くんの調整夢の世界だから、起きたら全部、この記憶の中に終われてしまって、思い出せないよ」


 って言われる。


 ああ、そっか、アキシオンさんとか使っても無駄なのかなあ。今日に限って割と反則な事を考えてしまうけど、春夏さんがそう言うならそうなのかもしれない。


 僕は、そんな春夏さんの横顔を見てるんだけど、どこか寂しいみたいに感じた。


 春夏さんは、まるで懐かしむみたいに言うんだ。


 「色々合ったね」


 って。


 嫌な言い方だなあ、って思った。


 「ごめんね」


 いやいや、違う違う、意地悪とか、そう言う言い方じゃななくてさ、そう言う言い方をしてしまうと、まるで、全部が終わってしまうみたいな言い方でさ、先が無いって言うか、つまりは僕はもう春夏さんにこうして会えなくなってしまうって気がして、嫌だな、ってそう思ったんだよ。


 春夏さんが悪いわけじゃ無いんだよ。


 「そうだね」


 って言って春夏さんは笑うんだけど、その顔がまた寂しさに陰る。


 見えたんじゃ無いね、僕の夢の中でそうしているのだから、春夏さんは寂しいって、つまりは悲しんでいる。


 「ご、ごめんなさい」


 僕の気持ちが、春夏さんの悲しみに連れられて奈落の底に沈んで行く様な錯覚にさしかかろうとした時、他でも無い春夏さん自身に止められた。


 「うん」


 って僕は気持ちを持ち直して、相槌をうつ。何が『うん』なのかわからないけど、春夏さんが悲しむのは嫌だからさ、僕もここで踏みとどまらないとって思ったんだよ。


 そして、またいつもの様に微笑んで、春夏さんは、


 「秋くん、強くなったね」


 って言うから、


 一瞬、うれしかったんだけど、でもすぐに脳裏に、こんな時まで母さんの顔とか浮かんじゃって、


 「ううん、僕なんてまだまだだよ」


 って謙虚とかじゃなくて、本音で言う。


 ここじゃ、春夏さんに何か隠すなんてできやしないからさ、いや出来ても春夏さんなら本音で何もかも話すんだけどね。


 でも、いつもの、僕の知る春夏さんって、無口で微笑んでるイメージがあるけど、ここの春夏さんは饒舌なんだ。もちろん、たくさん話せて嬉しいよ。全然嫌じゃない、そしていつもの無口の春夏さんも好き。


 結局の所、僕は春夏さんならいいんだよ、きっと、この春夏さんがいいんだ。


 ああ、ごめんね、僕の隣で春夏さん顔真っ赤だね。


 本音っていうか、考えてる事がダダ漏れだから仕方ないよね。


 でも、つられてしまって僕も赤くなる。黙ってしまう。


 暫くの膠着状態。押しても引いても動かないくらいの状態。


 その均衡を破るのは春夏さんの優しい一言だった。


 「ううん、強いよ秋くんは、きっと今日花さんとは違う方向になってる」


 って肯定してくれるんだよね。


 そして、


 「これは私の為に強くなってくれたんだから、他の人となんて比べるまでも無いの」


 と言う春夏さんの言葉は、声は強い。


 そうなんだ。そうだよね。そうかもしれない。


 僕はこの辺についてはボンヤリとだけどそう思う。


 今にして思えば、僕はダンジョンの中で、と言うか、あれ春夏さん自身だから、彼女の中で、何もかも上手に導かれていたんだなあ、って思う。


 もちろん、そこには、彼女の意図を知らないと言うか忘れさせられていた僕が、誘導されたって言う、そう捉える事もできるけど、春夏さんはそんな事するわけが無いから、それは今は考えない。


 「そんな事ないよ、私は秋くんを利用して、私の願いを叶えようとしているだけだから」


 って、悲しい言い方をする。


 「それは違うよ」


 僕は、僕を見て悲しむ春夏さんなんてごめんだから、つい、大きな声で言ってしまうんだ。


 びっくりする春夏さん。


 でもね、僕は思うんだよ。


 好きな人にさ、大好きな人に喜んでもらえるって、結構、凄い事だって思うんだよ。


 何をして何をして欲しいのかなんて、わからないから、近い距離で斬り合うみたいなものでさ、その距離故に有効なモノなんて入らないで、気持ちの探り合いになってしまってさ、それでも、お互いに理解している筈の、分かり合えてるって言う状態だから好きになれてしまっているのに、それでもわからないのが、きっと互いの気持ちなんだと思う。


 だから、自分の本心や本音すら見失う恐れのある、好き合う関係において、間違いなく春夏さんのしたい事、やって欲しい事に辿り付けるって事は、それが誘導されているって事実があったにしても、上手くここにたどり着けたのは、やっぱり嬉しいかな。


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