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第126話【対象 真壁秋、全校状況開始】

 それは、この新世界側の私達への当て付けでもある様に感じるのは、間違った結論ではなく、彼女は、様々な矛盾と不理解が生んだ結果である事を私はだいぶ後で知る事になる。


 しかし、この時点では、正体不明な存在に、秋くんを近寄らせてならないと言う、この体が東雲だからこそ、まるで本能に突き動かされる使命感を持つ様に思う。


 そして、それは概ね、私達の存在を、こちらの常識で見た所謂偏見である事を、今らながら気づかされた、つまりは魔物を異形と言い捨てる人たちの、決して受け入れらない、そんな硬くなった気持ち。


 私は、私として、その時点では秋くんへの思いと焦燥に駆られていたので、その時の接触は、葉山静流さんと出会いは、そこまでになる。


 もっと早くから彼女へなんんらかの取り組みをしていればよかったと、そう思うのは、今、秋くんのお陰で何もかも上手に彼女を救えた結果だからこそ思える贅沢な悩みなのはわかっている。


 でも、あの時の、私自身が彼女に向けてしまった冷たい視線と、その後、秋くんを思えばこそ彼女を遠ざけようとしていた自分が恥ずかしくて、小さな存在だと、今ならそう思える。


 だから、彼女を救う秋くんを見た時、彼の成長に、あの破壊を司るだけの力を包み込む大きな優しさを感じて、安心したのだ。


 でも、まだ、あの時点ではただ戦慄する。


 この子が、一体なんなのかわからない。全く理解に及ばない存在。


 そして。私は思う。結論づけてしまう。


 この新世界も魔物を生み出す技術がある事を。


 彼女もその時は長い接触を望まない様に、今回の氷野さんへ状況として結論だけ言うと、すぐにキビを返して帰って言った。


 その委員長がいなくなると、私はホッとして、振り上げ様とした木刀を腰の鞘に戻す様に引いた。今更気がついたけど、私は今、初めて臨戦態勢を解いたのだ。


 父と母による技術が染み付いている証拠でもあった。


 えもしえぬ不思議な邂逅はあったものの、私は、あたらめてホッとしていた。


 よかった、秋くん取られなかった。


 そう思う私は、安心して、もう自分の世界に閉じこもって、勇気を振り絞った女の子の不幸になってしまった、まさにその前で喜んでいるっていう、春夏の中にある記憶を統合すると、最低な人間という形にスッポリとハマってしまっていて、自分のそんなメンタルに嫌気が指している今も嬉しくて嬉しくて、そして、


 「なんで、東雲さんが泣いてるの?」


 と、いつも間にか一人になっていた氷野さんにそう話しかけられて私は初めて自分が泣いている事に気がつく。


 安心しる心は急に緩んで、どうしてか私の目から一筋の涙を排出するに至る。


 あれ?


 特に悲しくもないのだけれども、どうしてか、その一粒の涙から、次々と、涙が溢れる様にこぼれて行く。


 気持ちは平穏に戻っているって言うのに、おかしい。


 ダメだ、ホッとしているからこそいまだに涙が止まらない。


 そして、氷野真湖は、私を見て、ちょっとガッカリして、


 「距離が近すぎるのかなあ、真壁くん私の事、なんとも思ってないみたい」


 と、言うが、それほど悲しい顔はしていない彼女だった。


 でも、彼女も涙を流していた。


 「あれ? おかしいなあ。それほど悲しくもないのよ、なんかね、みんなで話している内に、盛り上がっちゃって、だから告白もノリだったんだけどなあ」


 いつの間にか、彼女の周りからは人も消えて、私は氷野さんと二人きりになっていた。


 彼女は、座って私を見上げて、私はただ立ち尽くして彼女の顔を見て、二人で泣いている。


 「真壁くんってかっこいいよね?」


 って聞かれるから、


 「うん」


 って答えた。


 「あの子の凄さにみんな気がついてないのよ」


 って言う氷野さんの言葉に、


 「うん」


 って答える。


 そんなの当たり前なの、だって、私の半分をあげた子なんだから、4歳でダンジョン最下層まで到達できる子だもの、凄いわ、って言いたかった。氷野さんに伝えたかった。


 そして次の言葉に私は、驚く。でも、これは定石な、至極当たり前の言葉で質問で、答えもわかりきった問いだった。


 「あなたも、真壁くんを好きなの?」


 今思えばここで私の秋くんへの想いは固定されたのかもしれない。


 ここから育ち始めたのかもしれない。


 つまり、ともかく、今の私は至って普通に、氷野さん同様に秋くんに恋する女の子なんだ。


 私の想い、私の気持ち、だから血も肉もある欲望。


 「うん」


 そう答える。


 「じゃあ、今度はあなたの番ね」


 今、失恋したばかりの彼女は私にそう言った。


 その言葉が、私にとって半分で、全てだった秋くんを、そこの場所に固定する。


 親愛、同心、そして今また彼に対する恋心が加わった。


 どんどん大きくなる。


 秋くんは私の中で、まるで隙間なんてなくなるくらい大きくなって行ったの。


 そして、今度は私にとって、秋くんへの、この学校ならではの女子としての状況が開始された。


 私が秋くんに告白しないと、一般の女子は誰も秋くんに話かけられなくなる。


 この決まりは厳重にして、厳格な、乙女としての盟約。


 それはどうしても秋くんに告白できない私をみんな優しく待ってくれる。


 いいから、自分のペースでね、って、言われる。


 一日過ぎても、


 1ヶ月経っても、


 そろそろ一年になろうとしているのに、みんな優しく待っていてくれるの。


 そう、秋くんから女子が引いて行ったのは、ごめんね。全部私の所為なの。

 

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