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第123話【告白という、女子の鋼の結界ルール】

 もちろん、その男子にとっては違和感みたいなものはあるものの、それはあくまでその女子が目的としている男子に告白を行うまでの割と短い時間(せいぜい1日)である、しかも、女子からの呼び出しは既に行われている後の厳戒令なので、そんな風に呼び出しを受けた男子にとっては、『え? 何? 校舎裏に呼ばれて、俺どうなっちゃうの?』と、他の女子が話しかけて来ない事実を気にしている余裕などないので、その辺は全く気にする場合がないらしい。


 そして、告白後は、状況は終了して通常の状態に戻るのだから何も問題はいらない。


 もちろん、その厳戒令は私のところにも発布されてきた。


 何より、私と秋くんの関係を知らない他の女子たちは、


 「違うクラスの男の子よ、他の男子みたいにバカじゃないし、女の子みたいな顔してるから、人気はあるとは思ってたけど、結構早かったわね」


 と言う言葉に、私は明日葉の言葉を思い出す。


 「秋くんは、今日花を男の子にしたみたいな見た目だし、(厳しい躾によって)女の子に優しいし、何よりあの強さを知ったらきっとモテモテになっちゃうから、ツバつけるんなら早めにしときなさい」


 と、割と前から言われていた事を思い出した。


 なんだろう? 違うクラスの秋くんのところまで行って唾液でもつけてくるのだろうか? 


 と、こちらの世界の常識とかを疑った事もあったが、たったそれだけで、占有権を主張できるのなら、やっておけばよかった。


 私は死(地底に横たわる名もなき偉大な白き神に死の概念は無い)ぬほど後悔した。


 なんでも相手は秋くんお家の隣に住む女子で、名前は氷野 真湖。小学生中学年から一同じクラスだと言う話だった。そして、今は私と同じクラス。


 他の女子達によると彼女が秋くんに告白した場合の成功率は99%と言う高い確率を弾き出してしまっている。


 理由として、秋くんに氷野さんの申し出を断る理由がないから。


 つまり、彼女が秋くんに、「彼女になってあげる」と言われた場合、秋くんは、「うん」て答えてしまう可能性が99%あると言う事なんだ。


 何も考えられなくなってしまったまま、放課後が来てしまう。


 クラスの女子は色めき合って、氷野さんを中心に、クラスを出て行く。


 ああ、秋くんを呼び出した校舎裏に行ってしまうんだ。


 そして、とうとうその時が来てしまうんだ。


 私はその時、どうかしていたんだと思う。


 私が、秋くんに対する思いは、自分では純粋に、きっとこの子も時の流れにより他の子と同じ様に自分の人生を生きて、子供を設けて、この世界の一部になって行くのだと、それを最後まではむりでも、今この時点から見守るつもりでいた、そう考えていた。


 好きなのは好き。


 でも存在の像が、理念が、思想が違いすぎる。異世界くらい違う。


 何より、私に恋愛感情など無い。


 私にとって秋くんは、私の夢を叶えてくれる人。


 こちら側の力の終極点。


 もちろん私の半分を渡した人。


 この力の全部を渡しても構わない人。


 ずっと会いたかった人。


 でも、近づくと私がどうにかなってしまいそうになるくらい私に影響を及ぼす人。


 私はこの体に囚われているから、春夏の体に囚われているから、こんな感情に蝕まれているのだと、そう思う事にしようとする。


 いいや、違う。


 この体、春夏の体に残っていた秋くんに対する感情は、親愛の情。


 まさに、私の今は偽っているはずの父と母と同じ感情。


 この小さな自分の可愛い弟を、どこまで可愛がっていいのかわからないくらいに傾倒した、肉親への愛の感情以外の何者でもない。


 恋愛感情などでは決してないことを知っている。


 そして、今私が抱く感情は、純粋でも秋くんを想い尊ぶべきモノでもなく。


 グニャリと歪んだ、重い感情。


 黒黒として、愚鈍で、粘度の高いドロドロとした血液の様に生臭く、それでいて心を焼き尽くしてしまうほどの、嘆きにも近い禍々しい感情。


 自分の秋くんを誰にも渡したくないと言う、笑ってしまうくらい単純で粗暴で怒りに満ちた暴力に直結する激昂。


 まるで私の心が炙られ、焼かれて私はこの体の中に皮肉にも心の形のあることを知るくらいの具体的で輪郭が浮き彫りにされる。


 どうしよう、体が上手く動かせない。


 この後、学校帰りに札雷館に寄って行くつもりで、新調した木刀を持つ手が震える。


 椅子から立ち上がろうとする膝に力が入らなくてガクガクする。


 そして、この状況を今更気がついて、私は愕然とする。


 異世界で、次元を相違して隠した世界で、地底に横たわる名もなき偉大な白き神として生まれた私は、大義名分もなく、戦いを意識していた。


 ダメだダメだ、ダメだ!


 何をしようとしているのだろう?


 その疑問が浮かぶ前に、


 「渡さない」


 と私の震える唇が、無意識を口ずさんでしまう。


 それは風鳴り様に、意味を持たない空気を伝搬するただの音の様な存在だったのかもしれない。


 もう、歯止めなんて効かなかった。


 私は私の中に生まれてしまった自分自身のありえない程の肥大化した欲望の前に、その願いを達成するが如くに体を動かしている。


 全てはこの思いに集約される。


 秋くんは私のもの。


 今度は口に出して言ってみる。


 「秋くんは私のもの」


 意識して呟く自分の言葉に体を走るのは、まるで雷の様な衝撃。


 そして、得体の知れない自分から生まれて自分を飲み込んでしまう様な快楽の波動、何も達成していないと言うのに、得体の知れない満足感に包まれる。


 もう、止まれない。


 気がついた時には、私は走っていた。


 真っ直ぐ。


 秋くんが待たされているであろう校舎裏に向かって、全力で駆けていた。

  

 

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