第121話【再会は約束された初恋】
そして騒動は収まって、この小さな東雲がこのダンジョンに入った事も全ては泡の様な記憶と思い出は、深く深く沈めて、いつの日か彼が思い出せる様に保管して、私は東雲春夏になった。
そして直ぐに後私は北海道から去ることになる。
東雲春夏の父と母は、その欲望を蘇らせる為に、特に父の生家のある本州に渡り、仕事のある父親とも離れて、私は、この母と一緒にしばらく旅をする。もちろん、それには年齢経過によって外観を変えない私に対しての気づかいもあったのかもしれない。
たまに父親に会って、春夏同様に剣の修行も受けた。
私にとって不思議な時間だった。
私にとって初めて知る穏やかで、優しい時間だった。
私は、この地に来ても尚、地底に横たわる名もなき偉大な白き神としてダンジョンを動かしていた、だから、その存在価値を立てる為にはそこに余裕などはなかった。
私が私である為には常に必死にならないといけない。
しかし、この世界の子供は概ねその時の私の様に親の愛に育まれている。
だから、この世界の子供は平和に満ちているのだと、そう感じた。
もちろん、こちらの世界は広くて、そうではない子供等も多い。
どちらの世界にせよ子供は宝なのに、そうは思っていな輩はどちらの世界にもいるらしい。
少なくとも北海道ダンジョンでは子供を不幸にしない事を、私がこの両親にされて来た様に、いつか異世界が落ちて来ても、少なくとも存在する限りは、子供達を守ろうとそう誓う。
元より生み出すことしかできない名も無き世界へ奉仕する為だけに生まれたこの身なのだ、どこにも向かう事のなかった母性は最初からある。そしてそれを置いて来たもう一人の私にも反映させる事にした。
そして有限な時は過ぎ、いつの間にか、私は、彼等を父と母と呼ぶ様になった。まるで、子供である事を許される様に、彼らは私を本当の娘の様に扱ってくれた。
だから決して強要された訳ではなく自然にその様な形に収まっていた。
ただ、それが正しいと、いつの間にか拾って集めた東雲春夏の欲求がそう動いたのかもしれない。
私はその間に、彼女の本物の東雲春夏の残滓を探す。
そして見つけるものは、当時の私には理解し難いものも数多くあった。
特に、札雷館の北陸支部での君島と言う男子の扱いについては、今を持ってしてもその欲求が理解できなかった。
そこにあった欲望は、ただひたすら、その君島をいじめたい、なじりたい、罵りたい。と言う謎の欲求だった。
何より、そうされる事によって、君島と言う男は、喜び、あまつさえ快楽を感受している様だった。
私はその事をただただ気持ち悪いと思った。
この東雲という女子は、同じ東雲の秋くんに対しては厳しい稽古をつける一方、聖母のご時優しさを持って接していると言うのに、この君島と言う歳の近い男の子に対しては全く容赦がなかった。
この時、秋くんの中でしか知らない春夏と言う人物が大きく崩れる瞬間でもあった。
意外に乱暴者、そして親に対してはかなりの甘えた人物で、特に何もなくともテンションは高めのこの春夏と言う人物をそのまま私が行うと言うのはかなり無理があった。
それに、父も母もそれを求めてはいなかった。
「春夏は春夏、あなたはあなたなのよ」
と母が言ってくれた事に、私は承認される喜びを感じていた事に驚く。
きっと、この地に溶けて、人になって行った者達は概ねこんな感情を抱いていたのだろう。
そんな事を自覚する頃には、いつの間にか現れた心と言う存在に驚くばかりだった。
だからこそ思ったのかもしれない。
秋くんに会いたいと。
あれからどれだけ経ったのだろう。
きっともう一人前の男の子になっている。
私を混ぜた、運命を共にする、私を残して来た、私の秋くんに会いたいと、気がつけばほぼ毎日考える様になっていたのだ。