第120話【偽りの娘を受け入れる家族】
既に形は約束されている未来に向かい始めていると確信した私は、この北海道ダンジョンを空ける準備として、このダンジョンの中に、新たな人格を造り出し、ダンジョンの管理を任せて、この地を後にする。
壊してくれる彼に対する反礼として私はこの体の持ち主を蘇らせないとならない。
決してそれはその様に動くと言う偽物でもなく、彼女の欲望。
なんの為に生きているのか、その片鱗を見つけ出す為に、私は人の真似をしてこのダンジョンから外に出る。
私に課せられた願いは、既に成就が決まっていたから。
私の願いは、彼の願いになってしまっていたから、だから、彼が失ってしまった春夏の復活の為に行動することに躊躇いはなかった。
私はこれからかつて、東雲春夏だったものの残留思念を探しに行く。
もし、彼女がダンジョンでその身を消失し、事実上の死を迎えていたのなら、その記憶や記録、そしてたった数秒前の欲望すらも、簡単に探し出せたものの、外で失われた東雲春夏の残滓を探すのはそれなりの時間と、何より範囲を必要とするのだ。
全てでなくても良い。例えるなら、ある程度のピースを並べただけでそのジグソーパズルの絵が見えて来る様に、また、その大きさも疎らになっているので、それによっては目的を果たす時間は見えてはこない。
東雲春夏の最後の想い、願い、だから欲。大きな彼女の何かに訴える要求。
だからきっとそれは大きい。
そして、今は叶えられないモノだと、私はどうしてか理解に達している。
だから例え小さくても、形を成す為に大きな範囲と時をかけて探さないとならない。
そこまで辿りつければこの傀儡な体の中に東雲春夏は復活する。東雲春夏は続きの生を得れれる事になる。
私はダンジョンから出る、意識を失う秋くんを連れて。
大量の情報、混ぜられた私の人格に記憶に植え付けた、彼を模した仮想人格。いきなり全てを処理できずに、彼の思念を預かる大脳は休止と睡眠を欲したのはわかったので、そのままその母である殲滅の凶歌に手渡す。
その時、彼女は私の方に対して、一つお辞儀をして、自分の息子が帰って来たことだけを安心している様にも見えた。
長らくダンジョンに入っている彼女が、最後の扉に辿り着いた彼女が、私の正体に気がつかないはずはないと思いながらも、私に対して敵対する訳も、何を言うわけでもなく何をするわけでもないかつての殺戮者に対して、薄気味悪さを感じてしまう。
そして、私は一人になると、そこには、東雲春夏の家族がいた。
私はここでこの体、そして私を終わらす事は、この少年が必死でやって来たことが無駄になる事を説明した。
そして、この体のまましばらくいさせて欲しい事と、春夏を蘇らせる目的が達せられたら、去ることも同時に告げる。
だから、彼女の縁を教えて欲しい。どこでどう生きて来たか、生まれたところから教えて欲しいと、春夏の母親と父親に提言した。
春夏の体、異なる意思、それを認識すると、明日菜と言う母親だけが大勢いた人の中から、飛び出して来て、春夏となった私を抱きしめた。
彼女の行動に私は驚く。
彼女は私の正体、中身である私を知っている。そう説明したはずだ。
そしてそれはごまかしの効かない事実であって、なぜなら彼女こそ生粋の東雲なのだ。
何よりも自分の娘が娘でない事を誰よりも深く理解しているはずなのに。
しかし、母として彼女は、涙を流して、私を抱きしめて、あまつさえ、「春夏」「春夏」と叫んだ。
彼女には私が偽物である事を知っている筈なのに、だからこそ彼女は春夏の、ダンジョンでの復活を望まなかったのは、それを知っているから、この北海道ダンジョンで作られる春夏は春夏でないと、一番知っているはずなのに。
形は同じでも、中身が、体を構成るつ素子そのものが、既に春夏とは違う事を、誰よりもよく知ってるはずなのに、彼女は喜び、そして簡単に私を受け入れる。
私はこの家族にあっさりと春夏である事を認められてしまった。