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第118話【継ぐむダンジョンの思いは春夏となって……】

 しかも同時に、私はあろうことか欲を、欲望を持ってしまった。


 今、この男の子の、欲望を春夏を蘇らせる事だどしたら、同時に私に沸いた欲望は、人の体が欲しいと言う、おかしな欲望だ。


 そして、できればそれはこの子から向けられるであろう意識を受け止めることのできるこの春夏としての体が欲しいと言うことだった。


 あまりに具体的で、そして愚かな欲求。


 そして、それは、彼とは形の上では同じ希望だった。


 彼は東雲春夏の復活を願っている。


 だから、私は彼の頭をのぞいて、意識はなくても体だけを作る。


 たくさんある。一緒にいた記憶。


 春夏の事。


 カニが一番好き。


 雪まつりは毎年開催されている時はかならず彼を連れて行く。


 そして、ダンジョンが好き。


 でも自分の立場として、入る事は躊躇っていた。


 それでも浅い階には内緒で何度か入っていた。


 それを、この子に自慢げに話していた事。


 彼の持つ春夏の情報はどれも賑やかで騒がしく、そして生命に満ちていた。


 これなら容易に作ることができる。


 春夏の体だけは簡単に作ることができる。

 

 私は、この地に降り立ち、創造する神として、人に対して奉仕するように作られた神だ。創造神の一端である全知全能の奇跡はある。


 彼がそう願うなら、それを行うのが私の神として、地底に横たわる名もなき偉大な白き神としての役割だ。


 私は皆の心配や反対を押し切って、東雲春夏の復活を果たした。


 しかし、それはただの人形。


 意識はある、思考もする。が、ただ、立ち尽くすだけの人形。


 彼女には欲望がなかった。


 生きて行く意思。


 それは飢える事のない燃料のような物で、その欲望によって彼女は動き、行動をし、目的を達するのだ。


 その欲望の炎がつかない。


 心臓も脈打ち、その目にも周りの景色が写っているはずだ。


 どうして、なぜ?


 そう思った時、ここに東雲春夏の欲望はいない。彼女が何をしたくて、何をなそうとしていたのか、思念の欠片があと一握りでもあれば、彼女の欲望はそこからつぐみ出すことができる。


 それで一人の人間を復活する事ができる。


 私と言うダンジョンの中には東雲春夏と言う少女の意思は存在していない事に気がついてしまう。つまり、ここで行き止まり。だからお終りだと気がついてしまう。


 それでも、この子は喜んでいた。


 自分の春夏が帰って来たと喜んでいた。


 一瞬の歓喜は、竜達の言葉によって絶望に変わる。


 あの東雲春夏の残滓が少しでも残っていればと、そう思うのではあるが。あの時点ではその総量が少なすぎて、この程度の残留する思念では他のものとの区別がつかなくて、やはり私の中では一度死を体験しないと、思念と呼べるほどの一人の人を形成するだけの人格は再生できない。


 その現実に彼は大き失望し、見てはいられないほどの悲しみを、焦燥を感じていた。


 そして、人の姿をした凶竜に、彼は言う。叫ぶ、


 「嘘つき!」


 と。


 その言葉は、この私に向けられた言葉ではない。


 そして、ただの言葉に過ぎず、音が構成する意思の表現に過ぎない。


 しかし、それはまるで、呪いのようにあるはずの無い私の心に刻まれ、ようやくできたばかりの私の人格をかき回して、感じるはずもない悲しみは彼と同じ焦燥となった。


 私はその時、東雲春夏を復活させる事でいっぱいになっていた。


 いや違う。


 そう、私は私達の行って来た罪に対しての結果を出そうとそれだけ考えていた。


 いや違う。


 世界を、私達の世界を綺麗に滅ぼしてもらう為に東雲春夏の復活を考えていた。


 いや、これも違う。


 ただ、私の目の前には困った男の子が、期待させてしまった分の広く深くなってしまった絶望感に落ちてゆく真壁秋と言う男の子の、その困っている姿をこれ以上見たくなかったのかもしれない。


 ああ、そうか、私は彼の喜ぶ顔が見たかっただけなのかもしれない。


 未だ方法も思いつかない。


 彼女、東雲春夏も作れない。


 今にも泣きそうな彼に、私は声をかける。


 「大丈夫だよ秋くん」


 自分の中でしか聞こえない言葉に、自分で縋る。


 うん、任せて。


 自分の言葉に自分を奮い立たせる。


 私は、この行為に関して、それが勇気である事を、ずっと後に知ることになる。


 困った顔の秋くんは、それでも半信半疑な顔をして、悲しみや絶望から自分を逃してくれようとする私を頼ってる気持ちが、押し寄せる波のように注ぎ込まれて来る。


 その勢いは私を高みへと誘う。


 この子に頼られる喜び。


 生粋にして純粋な思い。


 これを独占できる状態を、私は始めて知る、例えようのないほどの歓喜と感じていた。

 

 

 

 


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