第115話【地に溶ける悦びに憂う春夏だったものの想い】
彼らは大陸の落下と同時に皆新世界と呼ぶこの地に降りた瞬間、人類の蹂躙を開始するだろう。
私を産んだ母体の一部にすら、未だ、世界を自分達で統治してしまおうと考えるものは少なくない。
友好的と言っても、必ずしもこちらの世界に対して有益とは限らない。
あくまで統治はこちらがわと考えるものは多い。
もちろん、そんなことはさせない。
その思い上がった気持ちなど叩き壊される事だろう。
敵意にも近い浅慮に抵抗する為に、私はダンジョンウォーカーを生産し続けた。
鬼神化を与え身体を強く、自分を依代に奇跡の力を、スキルを与えて、装備も撒き散らして、強力なダンジョンウォーカーを排出し続けた。
その事実を彼らは恐れた。
特に強力なダンジョンウォーカーの存在に懸念を示す。
何より、私が、自分達の世界の思惑として働かないことに懸念を占めるものが大半だった。
だから、向こう側の世界では、その異世界の先兵となるべく魔物の力を増して来ている。
そんな、状況の変化にすら今のダンジョンウォーカーは対応して来ている。
強者は集まり続ける。
何より、東雲が集まる。
世界に散ってしまった今はもう自分が何者かもわからない東雲さえも、私の中に入って来てくれた。
特に、あの特出した能力を持った一人の剣士の登場に、異世界は驚愕した。
たった一人の少女をつぶすために、かつて例を見ないほどの戦力を異世界から注ぎ込む。
2回目のオーバーブロー事件と呼ばれた、私から魔物が吹き出した事件は、実は、異世界からダンジョン周辺に魔物を注ぎ込んだと言うのが事実なのだ。
まさに間欠泉の様に、噴火するマグマの様に、空高く登った魔物達に柱は、実際はこの地に天空から注ぎこまれていたのだ。
それは、その行為は無謀と言えた。
かなり無茶な事で、事実、そのお陰で、異世界の解体は10年は早まってしまった。
そして何より若干の不便はあったが、それでも行き来できていた異界と新世界への門も壊れてしまった。
お陰で今はもう新世界に行くだけしかできない一方通行、しかもそれなりの耐性を持つものでないとゲートを潜る時、消滅してしまうとう副作用を生んでしまった。
そんなリスクを犯してでも、あの当時、殲滅の凶歌と呼ばれる少女の討伐は最重要課題であった。
もちろん、無理やり降りた数だけ、少女の刃に倒される事になったのは言うまでもな
かった。武闘派と呼ばれるもの達は、そのほとんどが、彼女の刃によって倒された。
いよいよとなった時、私達の世界から、最強の種族の中での最強な凶竜すら召喚する。
こちら側から来た少女の形をした竜は東雲からも大きく逸脱した能力を持つ少女と長い戦いの末に、決着がつかず、それどころか元々が平和主義者なのか、私達側に寝返る。
考えてみると、彼女もまた私と同じ様な立場だったのかもしれない。
私は彼女達を柱にして、ダンジョンウォーカーの形を整い始め、後にギルドと言う強力な組織が生まれる。
このことによってより安全により確実に子供達は私の中で強く逞しく育ってくれた。
子供達はきっと地上を守る。
そのためのダンジョンで私なのだから。
全ての準備は整っているのだから、もう、何も慌てる必要もない。
墜ちる世界は、一撃で壊せる。
ようやく、望んだ滅びが来る。
きっと私は、この地に霧散して、この地の一部になる。
それは素敵な事だと私は思う。
そこに意識がなくても、私は大地になって花を咲かすことができるから、その花はやがて実をつけて、きっと誰かを育む力になって、残りはまた花になる。
みなが、この地に混ざってこの地の人となり、私はそれを支えるただの土塊になる。
ずっと夢見て来た。
消えてしまうこと、なくなってしまうことに憂いたりはしない。
だからこうしてその記録を記憶を、夢にして今はゆっくり楽しんでいる。
全てはあの日から始まった。
一人の男の子。
とても困っている男の子。
今にも泣きそうな男の子が、怖さも心細さも忘れて、私の中に入って来たことによって、私は私の始まりを迎えたのだ。
私の前に立つ男の子。
大丈夫。
大丈夫だよ。
あなたの願いはきっと叶う。
だからおいで、私の中に。
何もかもを結実した男の子の名前は、実りを喜ぶ『秋』を名にして、過ぎ去ってしまった春夏を取り戻しにやって来た。
小さい体に東雲の血を、何より勇気を示して。
その姿を見た時、私は何もかもを受け入れようと、最初からそう思っていたのだから。
だから、この気持ちは歓喜であり、この約束された滅びの始まりに咽ぶのはただの歓楽なのだ。
あの子の姿は、あの子の思いは、漏らすため息ですら、私の喜びそのものなのだから。