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第114話【夢想するダンジョン】

 私は夢を見てる。


 永い永い夢だ。


 ここは、深い深い場所、きっと誰もたどり着けない最果ての底にいて、何もない所で夢を見ている。


 きっと足のあった頃の名残なのかもしれない。


 底にいると、ありもしない、つくこともない足の感覚を思い出して、どこかホッとする。頭が上だとそう思えるからだ。そこにあるはずもない目は届くはずもない、人の喧騒、街の賑わい、そして聞こえるはずもない賑わいの中らかあの人の声を聞く様に耳を澄ましてじっとしている。


 だから、底に意識を沈めて、いつも上を見上げている。 


 かつてあった過去。


 そしてどこにもたどり着くことはない未来とたどりつかないといけない未来。


 その二つを同じ場所に置いて、果たすべき義務を片手に考えるふりをする。


 どちらに行かないといけないかなんて、もうすでにわかってるのに底の世界で希望を見出す。


 それは決められていた事、そして決まっている事。


 私たちは滅ぶのだ。


 そのことは別に絶望ではない。


 私達が新世界と呼んだこの世界の為に、古き世界を滅ぼすのはもう決まっていたことなのだ。


 本来ならもっと前に綻び、砕けて零れてしまっていたはずだった。


 でも、実際は私であるダンジョンのおかげで、砕け散る運命は随分とゆっくりとした歩みになる。


 その間に、この新世界と呼ばれる地上に降りた仲間も多い。


 短い人の歴史の中で、そこに混ざって消えてしまった物もいる。


 魔物としての形や意識を忘れ、大半を失ってしまう事で、多くのものが嘆くその事実を、幸せな事だと私は思っている。


 中には迫害された者もいる。また、形と大きさから討伐されたものもいる。


 幸せに新世界に解けた者と同じ数だけ不幸になっているものの数も多い。


 そして混ざる者達は、概ね三世代目には私たちは何もかも特徴を失って、かつて魔物であった事すら消えてしまう。能力は深部に潜って、ほとんど出てこない。つまり、新世界の人間そのものになってしまう。東雲の一族を除けば、所謂、ここの世界の普通の人間になれてしまうのだ。


 だから、この地、新世界で子を産むも、人に準じる為に、種族的に混ざるのも混ざらないもこの地で子供をもうける事は私たちの世界では最大の禁忌となる。裏切りと取られる。


 せめてもの救いはあの、異造子と達が地上に最適化できた事。


 崩れ行く世界の手先の様に扱われていた彼らも、数多くの誤解や悪しき誘導に会いながらも、ダンジョンウォーカーと一緒の意識を持ってくれた事。


 幸いだったのは、誰も彼らを恐れなかった事、誰にも恨まれなかった事、何より受け入れてもらえた事。


 そして、他にも私の中に逃れていた魔物達、この地に散らばってしまった魔物達が世界に混ざり初めていた事。


 私は、彼等異造子を生んだ魔物である親を凍結した。


 それは、この禁忌を犯してしまった以上、どこにいても、処罰の対象になってしまうから、処分されてしまうから、形の上とはいえ、私が処罰したことにしなくてはいけなかった。神身である私が、罰を下している以上、誰も手出しができなくなるから、たとえ異造子達に恨まれてもこの方法しかなかった。彼らに対してすまない事だと、今もまだ思う。


 それでも、この異様な世界も異形のものたちも、形の上仕方ない事だと思うのではあるが、明らかに同じ人間というわけでない私たちを、この新世界の、ダンジョンにゆかりのない人間ですら、難なく受け止め始めている事。


 この地にダンジョンを作った事は成功だった。


 特にここに住むものは寛容だ。


 厳しい自然の中で生きて来た人々は、みな大らかで、明るくて、順応も早かった。


 かつての悲劇も、差別も、迫害もない世界。


 場所や人種にもよると思うが、こちらの人類は熟成している。


 だからダンジョンができて当初は戸惑う。


 大きくは否定的であった彼らの中から、積極的になんの情報もないダンジョンに挑む者達が現れるようになるのはさして時間はかからなかった。


 人は恐怖すら楽しむ生き物だと、驚きもした。


 時として敗北すら受け止め、足りない事を自覚して、苦痛を乗り越えて進んで行く。


 しかも寛容で暖かく、小さいが緊密な集団を形成する。


 意思を示すと、多少の形の違いがあっても彼らはそれを認識し受け入れる。


 多少の異形を見ても、意思の疎通があると、彼らは簡単にそれを人だと理解する。


 かつて、東雲がそうであった様に、きっとここならみんな受け入れられる。


 全部がうまくいくなんて思ってはない。


 でも、多少の齟齬があるにしても、ここに適正化した者達はきっと無事に生きていける。


 私はそれを、その可能性を守るために、生まれ故郷を敵に回すのだ。


 問題は、未だ、この地上を我がものにしようとしている強硬派の存在。


 どれほど力があると自惚れて、どれほど知恵が回るのだと胸を張ったところで、自分自身が滅び行く世界の住人である事を自覚できない種族は未だ多い。


 当たり前の様に自分達が主導でこの世界の覇権を握ろうとしている者達の存在。


 未だ、魔法を持たず、奇跡の発動を行えない、力を持たないこの新世界と呼ぶ地表にいる人間を軽く見る種族はいる。


 多くはない。


 でも決して少なくもない。


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