第109話【愛弟子とのたわいの無い食卓】
本当にみんなどうしたんだろう?
ちょっと動揺しているみたいな、うちの女子たちなんだけど、
「今、この時点を、この現状を鑑みて、彼女は危険と判断したぞ、真壁秋」
って、薫子さんも不穏な事言ってる。
そして、彼女達が、その視線を送る先には、僕の母さんと、滝壺さんがいて、二人並んでキッチンに立って、コロコロと笑みを溢しながら料理を作ってんだけど、いつもみんなとしていることだよなあ、って思うよ。
本当に、ダンジョンでハイエイシェント級と出会い頭にエンカウントしたくらいの緊張感に包まれてるよ。
みんなに注目される滝壺さんなんだけど、事の流れで僕の弟子になってしまって、その契約というか約束をして以後、こうして毎日家にやって来て、僕に指導を受けてる。ってかすごく積極的に指導を受けるので、僕としては稽古的なモノをつけてる感じになって、 ほら、僕って弟子なんて取った事ないからやり方がよくわからないけど、それでも、一生懸命に弟子をしてくれる滝壺さんだから、きちんとした教え方なんてできないのに、今もメキメキとその能力を向上させていて、たまに母さんも混ざって一緒に稽古みたいな形になってやってる。
でも、うちは道場って訳でもないから、仕方なく家の外でやるんだけど、そうすると、どこからともなく警備の人とか現れて、家のまえの道路とか封鎖してくれるんだよね。
まあ、家の前の道路、幹線道路って訳じゃないから、迷惑をかけるのは僕の家の近所の人達だけど、皆さん、「いいよいいよ」って言って、協力的なんだよね。
で、そんな毎日の中、もう夕食を食べてから帰るのが日課になってしまってる滝壺さんだけど、今日は悪いからと、食材を持ってやって来て、今、こうしてご飯を作ってくれてるんだよ、それを母さんが手伝ってる感じ。ほら、
自分の家じゃないからどこに何があるかなんてわからないからさ、母さんが、滝壺さんが欲しがるモノを用意しているって感じかな。
そして、滝壺さんからしてみると、「いつもご馳走になってるお礼です」って今日はこんな運びになったんだよ。
だからみんなの様子というか、この態度が今一つよくわからない。
葉山なんて凄い顔して僕の方を見てるし、かと思えば滝壺さん見てため息ついてるし、薫子さんとは言えば、もう母さん取られちゃうくらいの勢いだし、特に、多紫町の時の初代微水様の例もあるから、『グルルルル』って犬の警戒の鳴き声を擬音でつけたくなるくらいの顔をしてる。
時折、小さい声で、「私はまた私の今日花様を奪われてしまうのか……」
とか呟いてる。いや、僕の母さんだからね。
って思ってたら、母さんが、
「薫子ちゃん、ちょっとこっち来て手伝って」
って呼ばれると、
「はい! ただいま!」
ってさっきまでの表情は一体どこへ?って感じの笑顔で、ニコニコしながらキッチンの方へ小走りに掛けて行くよ。
まあ、他は相変わらずなんだけどさ、そのうち滝壺さんの作る料理も出来上がって来て、テーブルの上に並べられるんだけど、いつも普通に家で出る料理だったよ、見た目に豪華って訳もなくて、言い方も悪いけどどこにでもある料理なんだよ。
でも美味しそう。
「なんか田舎っぽいですよね」
って滝壺さん本人がいうけど、僕の家もこんなモノだから、「美味しそうだよ」って言ったら、
「ありがとうございます、師匠!!」
って滝壺さんは喜んでいた。
で、できたから普通に「いただきます」って食べたんだよ。
ああ、なんか、味がさ、全然違うなあ、ってびっくりした。
いや、根本的なとことは同じなんだけど、でも、違うんだよ、きっとこれが滝壺さんの家の味なんだなあ、って思ったんだ。