第102話【姉の心配、そして妹達の話】
それでも余裕で受け止められるのは、こっちがアキシオンの開放型としての起点だからなのか、それとも、加減してくれてるのか、僕にはわからない。
「真壁! 手伝う?」
って葉山が効いて来るけど、そんな案件じゃないし、
「悪いが、今は身内の話し合いだ、未だ恋人未満のお前じゃ、親族の話し合いへの参加は遠慮しな」
って春夏姉に直接言われて、葉山も、
「わかりました」
って納得していた。
グダグダになってしまったダンジョン一室に、僕と春夏姉の戦う、剣の接触音のみが響いでいる。
もう、ここに本音を尋ねようなんて無茶なことをして来る人はいなくなってて、僕と春夏姉だけが動き、弾きあってる。
なんかとても落ち着いてきたよ。
昔を思い出すなあ。
こうなった春夏姉はどんな形になっても僕を傷つけるつもりもないからさ、それに付き合って体を動かし続けて、僕らはまるで踊りを楽しむみたいに室内を駆ける。
「でも、私の胸とか好きだったよな? うちのお袋も含めて、触り放題だったよなお前」
って急に話しかけて来るからびっくりしたよ。
いつの間にかの春夏姉だった。
いつの話さ、って言う前に、
「ちっちゃい時なんて、みんなで風呂入れてやるからおっぱい触り放題だっったんだぜ、本当に満足そうに触ってたなあ……」
とどこか遠い目をして懐かしそうに春夏姉が言う、そして、
「今だって、そんなに変わってないから別に触るくらいなら良いぜ」
って、まるで包み込む様な笑顔で言ってくれるから、本当に身内って感じで、その身内の許容というか、性別差を超えてる大きさに、なんか感動してしまう、おかしな心に動いてしまう僕がいるよ。
そして春夏姉は言うんだよなあ、
「でもな、お前が欲しがってる胸は、あたしではないだろ? そんなのは一番お前が良く知ってる筈だ」
って、言うんだ。
いつもは乱暴者で傍若無人な春夏姉が、大人な人みたいな、そんな視線と表情で僕に言うんだ。
「あたしの中にさ、お前に対する、あいつの気持ちなんてまるで残ってないんだよ」
それは……、そうだと思う、だって春夏さんは春夏さんだし春夏姉は春夏姉だし。
「でもな、その形にポッカリと穴が空いててな、それをなぞると、よくもまあ、無機質を操るだけの存在に、こんな気持ちを抱かせてるなあ、ってわかるくらいの気持ちがさあ、形として、あたしの中に残されてるんだよ」
ニコニコ笑ってる春夏姉、その笑顔は僕には向けられている訳じゃなくて、まるで自分の中にかつてあった者、と言うか人に向けられている様に僕は感じた。
「あたしとあいつは、姉妹みたいなもんだ、同時にいる訳じゃない、でも、一つの心で、違う異なる意識を持っているみたいなモンでさ、だから、あいつの気持ちもわかるんだ」
僕の方に顔を向ける春夏姉。
こんな顔、春夏姉のこんな顔、初めて見たよ。
「あいつを、もう一回、こっちに引っ張り出そうぜ、秋」
そして、
「これは母さんからの命令でもあるんだぜ」
明日葉さんの?
「お嫁に行った春夏の方はいつ帰って来るのかしらね?、って毎日言われてる」
明日葉さん、ダンジョンに行ってしまった方の春夏さんも自分の娘みたいに思ってるんだね。
「今は、春夏と私、それと、春夏が生み出した真冬で、三姉妹揃う所を早く見たいそうだぜ」
って言い出す。
「方法はあるんだろ?」
春夏姉に聞かれるけど、全く見当がつかない。
だからさ、なにも答えずにいると、
「真冬の存在だ」
と言い出す。
「どう言う事?」
「あいつは、春夏が抜けたあとのダンジョンの意思、仮想意思なんだよ、それが出てきたって事は、あいつは意識の形として、まだここにいる」
でも、それは残骸みたいなモノで、もう形としては……、って僕は最悪の事を考えていたんだ。その残滓はいつも感じていたから、もう、形の上では追えないって、そう思っていた。もちろん僕はそんなことくらいで春夏さんを諦めたりはしてないけど、正直、今の段階では手詰まりで、このことに関して、僕は春夏さんとの約束を守った後で、つまりは落ちて来る異世界をどうにかした後、じっくり取り組もうかとも思っていた。
そんな先の話を今されて、というか春夏姉に理解されてて、ちょっと不思議だけど嬉しい僕だったりするんだよ。