第95話【薫子さんダァァァァァァァァァン!!】
急にみんな来たなあ、って、これで問題はこじれるか有耶無耶になるか、どうだろう?って考えてる僕なんでど、なんか雲行きが怪しんんだよね。
今度は葉山の奴がさ、滝壺さんに最接近するんだよ。
ツカツカツカ、って感じの足音すら相手を威嚇してるみたいな、そんな態度。
そして、その顔をジッと見つめて、
「ふーん」
って言うんだよね。
いや、葉山、すごい感じ悪いぞ、委員長キャラどこかに投げ捨ててるみたいだよ。
わかりやすく悪意を葉山は滝壺さんに伝えているんだ。
「な、なんですか?」
滝壺さんの、その質問には答えないで、葉山は、
「なんで、この子に真壁と同じ剣を持たせてるのよ?」
ってこっちツカツカと来て聞いた。
思わず下がろうとするも背後には薫子さんがいて、逃げられない。
で、葉山の質問の方には、何を言ってるんだよ、って思って、
「葉山も、春夏姉も雨崎さんもみんな一緒でしょ?」
って言うと、なんか葉山は、
「全く一緒なんて聞いてない、どこかに変化をつけるべきでしょ? これ完全にお揃いじゃない、なんか真壁が自分の剣を預けてるみたいで、彼女を信頼しているみたいで私、面白くないんだけど」
すると、薫子さんが、
「いや、それはスタイルとか体躯が一緒だったし、以前あったときに、きっとロングソードタイプがいいだろうって話は葉山静流、お前の前でもしたはずだぞ」
まあ、彼女は一応は僕の味方をしてくれてるから、そこはありがたいんだけどさ、でも薫子さんに取っては正しいことを正しく言ってるだけだから、そんなつもりもないんだろうけどね。
「薫子には聞いてない、どうして? 真壁、答えて」
その目から殺戮レーザーとか出せそうな視線をやめて、葉山。君は、色々と問題あるけど、少なくとも僕には優しい所がいい所だったのになあ、どうしたのさ?
「距離……の問題ですね」
とかアキシオンさんが言う。
何さ?
突然のアキシオンさんの言う所の、その意味がわからない。
「つまり、互いに信頼関係にあったと認識(錯覚)している男女どちらかが、そこに裏切りを感じた時に、派生する距離です、この距離の発生による感情の波は、心の空間を瞬時に消失させ安定していた精神を蝕みます、つまり、彼女はそんな状態なのです」
いや、状態の解説とかいいから、どうせなら対応策とか教えてよ。
すると、どこかめんどくさそうにアキシオンさんが答える。
「では、そこの壁に、黙って彼女を連れて行きましょう?」
え? なになに? あっちの壁に葉山の心を静める効果があるの?
「そこに、壁を背に彼女を立たせます」
うん、で?
「そこにあなたが、彼女の顔を寄せながら、彼女の顔の横の壁を、片手、もしくは両手でドン!と叩きます。この時、彼女の瞳を見つめているのがポイントです」
知ってる知ってる、それ『壁ダァァァァァァァァァン!』って奴だね。知ってる。
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バカの? アキシオンさんって馬鹿なの?
そんなのできる訳ないじゃん。
しかも、連れて行く壁も離れてるし、一番近いところでも僕、なにをするかも説明しないで無言で2〜30mくらい葉山を歩いて連れて行かなきゃならないって、しかもこんなに怒ってる葉山をだよ? できる訳ないじゃん。
しかもこんな混戦状態で、一人葉山を連れてっくって、石化した状態でラジオ体操第3しろって言われる方がマシだよ。
しかも、この切迫した中で言う様な事じゃないじゃん。本気で効果もあるとも思えないし、一体なんのつもりなんだろ、アキシオンさん?。
「え? 面白いから?」
僕の爆風の様に噴出する疑問と憤りに対して疑問形で答えてしまうアキシオンさんだよ。一瞬でもこう言うことに頼りにした僕がバカだったよ。聞く相手を間違えたよ。
基本、アキシオンさんて、僕の為になることならなんでもしてくれるんだけど、こう言う人間関係とか、特に僕の周りの微妙な問題となるとトコトンどうでもいいみたいで、と言うか、こうしたらどうなるのかな? くらいな感じで、おかしな方向に興味というか、反応を示す様になってる。大概的には味方だけど、精神衛生上の敵が増えている気がしてならない僕だよ。
「なに黙ってるのよ! 早く答えなさいよ!」
って葉山にせっつかされる。
どうしよう……、薫子さんが言ってくれた事以外、それ以上もそれ以外も無くて、改めて同じ答えを言うのもなんだよなあ、って思うから答えに詰まる。
しかもアキシオンさんと言い合いになっていた時間も葉山には聞こえてないから、いい感じに言い訳を考えている様にも見えてしまっている様で、自体は僕が望まない最悪な方へと流れる形が止まらない。
すごい怒ってるなあ、葉山。
僕が怒ってる葉山に何か言える訳なんてないじゃないか。
いや、ダメだ、なんか笑ってしまう。本当に緊迫してるんだけど、これだけ葉山に接近されているんだけど、ちょっと吹き出しそうになるんだよね。
大体さ、これって場違いな怒りで、誤解もいいところで、しかもいつも向き合ってる葉山の真剣な勘違いの怒りって……。
「なあ、葉山静流、これはきっとお前の思い込み…………」
って僕の後ろからそう言ってくれる薫子さんが消えた。いや、言葉の最後の方がみょうに低音になっていたから、ドップラー効果だね。
突き飛ばしたね、薫子さんを。
葉山、壁じゃ無くて、『薫子さんダァァァァァァァァァン』したね、壁と違って、薫子さん軽いから吹き飛んでしまったけど、しかも突き飛ばした方の葉山が1ミリも動いてないのが震える。今日の薫子さん、フル装備だよ。ギルドから強制されてるフルプレートだよ。本人は脱ぎたがってるけど。
そして、葉山の怒りというか憤りというか深い誤解はマシマシな感じで、僕をこの尋問から開放するつもりはないらしい。
今僕は、最初のプランとして、英雄となるべく人を探す、そして、見つける。更にその人にお願いするって段階まで来ていたのだけれども、なんかちょっと実行が難しくなって来てるなあ、と。
向こうは向こうでワイワイやってるし、今度は滝壺さんと雨崎さんが言い争い始めた。
なんかもう無理。
一旦、ここは退避だよなあ。って、今はこの場所から全力て離脱できる方法を考えてる僕は、ここ、このドンピシャなタイミングで現れた移動用ゲートに思わず目を疑った。
やった、誰か見かねて、脱出口を開いてくれたんだ。
って思った瞬間、その安易な発想と言うか、まるで樹里庵のとろけるショコラみたいな淡い期待を打ち破ったのは、そこから出て来た人のこの言葉。
「こじれまくったダンジョン関係、じゃなかったべ、男女関係のトラブルはこのお姉さんに任せるべさ」
って言う、今、一番聞きたくなかった人の声。
そして、その人物の登場によって、さらなる混迷を深めて行くことだけは瞬時に理解する僕だったよ。