第92話【久しぶりに聞いた名前だよ】
更に一瞬の瞬き。気がつくと僕の手に出ていたアキシオンを食い入る様に眺めている滝壺さんがいた。すごい真剣な顔だね、と言うか驚愕に彩られてるね。美人さんが台無しだよ。そして、なんで言いもしないのに出てきてるのさアキシオンさん。
まだ顕現せよ、とか言ってないのに、まるでこの状況を楽しむ様な原因を作り出すアキシオンさんだよ。
「本当です、私の剣を瓜二つ……」
今度は僕の顔をジッと見つめて、何かに気がついた様に、
「あの、失礼ですが、どこかでお会いしていましたか?」
とか言うから、
「さ、さあ……」
石狩川であってるよ、一緒に鯉とか釣ったよ、でも、あの時の僕の顔は、異造子のみんなに真っ白に塗りたくられてたから、今の僕の顔見てもわかんないって気もするんだけど、でもまあ、あの時に比べて元気になってよかったよ。
だからと言って、その時からの繋がりとかで、またややこしい人間関係を構築したくはない僕は黙っていることにする。
ホント、真面目に、これ以上僕の周りに女の子が増えてたまるもんか。
それに、海賀の脅威はもうないんだから、好き勝手にやればいいんだよ。
僕はもう関係ないから。って言い出すこともできない僕に突き刺さる、もうその視線が痛い。
物理攻撃でもありそうな視線。マジマジと僕の顔をガン見する滝壺さんの視線から逃れる様に顔を背けると、そこに、不気味な笑顔の春夏姉がいる。
「なんだよ、一番のお気に入りの娘には自分とお揃いってか?」
って言われるけど、違うから、この子の戦闘スタイルと言うか、背格好というか、剣に対する扱いが僕に近かったってだけだから、この見立てはアキシオンさん本人だから。
でも本当に、ちょっとくらいは変えてもよかったんじゃないかな。って思う僕だけど、自分の能力と言うかアキシオンさんが金属化している時のその実力を遺憾無く発揮するためには、案外、こんな風に剣としての形の上の相違って無いのかもしれないなあ。
すると、今度は、
「逆ナンですか?!」
って雨崎さんが僕と滝壺さんの間に割って入って来る。なんか珍しく怒ってるみたいな感じ。
そして、
「魔王さんを口説くなら順番守って下さい、今の時点での末端の私に手もつけてませんから、これから申し込むあなたの順番は相当後になるはずですよ」
一瞬、何を言われたのかわからない滝壺さんに、そして雨崎さんが何を言ってるのかわからない僕。
言った雨崎さんも自分の言っている言葉が上手く伝わっていない様がわかっているみたいで、僕ら3人とも頭に????がたくさんついているんだと思う。
そして、伝えようとする側の雨崎さんが何か閃いたって顔して、
「あ、エッチする順番? ってかイチャイチャ待ちですよ、ね、魔王さん」
僕、滝壺さんの顔をみていて、思ったんだよ、人の顔って一瞬で赤くなるんだなあ、って。
そんな話は初めて聞いたよ。誰がいつ、そんな話を決めたんだよ?
すると、春夏姉がブチ切れて、アキシオンのフランベルジュ型を投げ捨てて、僕のジャージの襟を掴んで持ち上げたよ。
やっぱ背が高いなあ、春夏姉。この辺の位置関係というか、大小な感じって、子供の頃と変わらないなあ、って思う僕は、ここ最近、小さい頃の思い出とかがしっかり思い出せる様になってきてるから、割と安定してきてるなあ、って、こんな時だけど思ってるよ。
高い高いをしてもらったかつての懐かしい感じだよ。だから春夏姉怒らないで。
「お前なあ、いい加減にしろよ!」
僕の期待をあっさりと破って怒鳴る春夏姉。
そして言うのは、
「それじゃあ、輝郎おじさんと同じだぞ!」
だった。
?
輝郎って誰だっけ?
なんか、ちょっと知ってる気がするけど、あまり聞かない名前だなあ……、って思って、キョトンとする僕に対して、まるで地鳴りみたいなため息を吐く春夏姉がブレスみたいな呼吸を吐き切って、顔を上げるんだよ。でさ、春夏姉の顔がどんどん近づいて来て、え、このままじゃ唇とか触れ合ってしまうよ、って、いやいやこれって、やばいって、僕もう子供じゃないんだよ、って思ってたら、オデコに凄まじい衝撃が走って、そして、目眩がするくらいの痛みが襲って来た。
普通に頭突きされた。
そして、叫ぶんだ。
「オメーの親父だろ!」
ああ、そっか、そうだね、確か僕の父だ。
うん、そう、そうだよ。
本当に、最近全く会ってなかったから、ガチで忘れてた僕だったよ。