第86話【漏れ出した禁忌、被害が及ぶ僕】
もっと最初から、油断なんてしないで真剣に向きあうべきだったんだ。
笑ってしまうくらい動揺している僕がいた。
やはり、異世界と僕らのいる現実世界は、相対する二つの世界はどちらかが消滅する運命なのかもしれないと、残念だけど認識できた。はっきりとそう思ったよ。
いや、まだ模索できる事はあるかもしれないけど、木村さんは消滅しろって思った。
じゃあ、ひとまず終わった事だし、またシリカさん事、佐藤和子さんにゲートを作ってもらって帰ろうか? って声をかけようとした瞬間に、僕は信じられないものを見たんだ。
それは、一変を一ミリ以下まで裁断したはずの僕のテストの答案用紙が、再生紙よろしく復活していたんだ。
あー、茉薙のスキルかな? 破砕剣シリウスを操作できるから、紙もまた操作できるくのか?
しかも、雪華さんも茉薙も穴の開くほどマジマジと見つめている。
「お前、どうやったらこんな点数取れるんだよ、点数がマイナスってありえないだろ」
と、いつもは僕に対してのみトゲトゲしくしか接して来ない茉薙が、どこか優しく、そして同情的に僕に言って来る。
そして、雪華さんは、とても複雑な笑顔、まるでなんとか作ってる感じの笑顔で、
「秋先輩、ここの秋先輩の回答、平仮名で書いている『てんてるだいじん』って誰の事でしょう?」
それ、2回目の追試だから、次の3回目では天照大神って漢字で書いてるから!
「あとな、秋、靴って英語で『ズック』って言わないからな」
ああ、木村さん、英語の試験解答まで持っていたんだね。
ってよくみると、これ、コピーだよ、点数が白黒だもの! って事は、本書と言うか、本物は木村さん倒してところでここには無いってことか!
恐るべきだ、異世界からの魔の手。
そして、どうなってるんだ僕の学校の管理、こうも容易く僕の追試の答案用紙を持ち出されるなんて、秘密保持の概念とか無いのか?
……いや、ちょっと待って、僕にこの答案用紙は先生から返って来てるから、管理していたのは僕だ。
いや学校から持って帰って来たけど、いつの間にか無くなっていたから、みんなに見せられないなあ、って思ってて、
て考えていると、まだ息がある木村さんは、
「豊平川に流れていた散り散りになった紙片をつなぎあわせたのだ、魔王真壁秋自ら、幌平橋上流で、笑いながら紙を破り捨て、ばらまいていたのを既にこの地に降りていている我らの仲間の何人かが目撃している、この紙に書いてあるのが何を示すものかはわからぬが、ディアボロスに尋ねた所、魔王真壁秋の進退に関わるものと聞いた」
とか言う。
いやいやいやいや、何の事? それ無くした答案だから、決して誰の目にも触れない様に豊平川に廃棄したものじゃ無いから、そんな目で見ないで、雪華さん、茉薙も!
ま、まあ、確かに、びっくりしたよ。
確かにすごい弱点だよ、これに関わる事項で、僕は危うくその立場を追われそうになり、進退にも関わっていたからね。お陰で、雪華さんと同級生になる所だったよ。
「いえ、まだ一年ありますから、同級生ではありませんよ」
と、だから考えただけの思念に対して返事するのは止めて、もう何も考えられなくなるじゃない。って思ったら、雪華さんもしまったって顔してた。
そして、
「ともかく、木村さんから異世界の事、いろいろ聞き出さないといけませんね」
と最後の方は呟く様に雪華さん、あまり見たことのない笑顔とも言えない微妙な表情をしていた。
これで全部、葉山の懸念が晴れると良いのだけれど。
僕の知らない過去から、世界は向かい合っていて、双方の接触と異なる欲望で葉山みたいな不幸な人間を作り出しているこの形をなんとかしないと、って思う。
春夏さんとの約束を思い出していた。
やはり早退する世界を二つ存続させるのは難しいと思った。
だから春夏さんは言っていたんだね。
世界を一撃で滅ぼす力。
思い出すのは北海道にあるダンジョンと、今、僕の手にあるアキシオンさん。
もう既にその力は揃っていたんだ。
そして、高等部に進級に無事に上がれたんだから、もうテストの話は良いじゃん。
いや、もう、なんか、捨てた筈の過去を突き出されて、まだドキドキしてる僕だったよ。