第79話【海賀商事にお邪魔します】
そんな当たり前で、特に人に話を聞くときには前提条件として、まず飲み込んで行かないといけないこの知識を、冠の様に頭に付けたとしても、ディアボロスくんの話は、どこかリアルと言うか、そして、今もこの世界のどこかで起こっているって、そんな気がする話だった。
その虚偽はともかく、その行いと言うか海賀のやって来た事はまったく許されるべきではないとは思うけど、ともかく、良い悪いじゃなくて、落ちて来る異世界に対しては対処はしないといけない。
そして、落ちて来るまでの時間も割と少ないことも、今回のディアボロスくんの話の中でわかっている。
出現した時は、もう回避とか破壊とかできない状況になるって言う事もわかった。
その上で、もう海賀とは、この茶番の様な事件の全てを終わらそうと、僕は思った。
英雄陣を作って、ダンジョン壊滅を狙った孫。
今回の僕の家を、開発中の兵器と自分の息のかかった兵隊で襲って来た、前会長。
そして、あの時、魔物の姿を晒していたあの爺さんである現会長。
実は、僕、総理から言われていることで、もう一つ、例のハーレム婚以外の、この国の司法に縛られない一部の法的免除を確約されている。
それは、今後、異世界落下に関連する、僕の行動に伴う、事故や事件に対して不問になると言うこと。
つまり、殺傷与奪全て不問に処すって事になってる。
敵地における、兵士と同じ権利だね。
つまりは兵士は敵を殺しても殺人罪には問われないでしょ?
こっちは正確には状況にもよるんだけど、概ねそんな感じなんだよ。
そんな権利も保証されてるんだよね。まだみんなには言ってないけど、他にもあるよ。
お陰で何があっても対応できるし、何をしてもいいよ、とは言われてるけど、そんな権限とか権利とかを行使してしまうと、僕もきっと彼らの仲間入りだ。
もちろんそんなのゴメンだからさ、ついては来ているけど、僕はあくまで雪華さんの付き添いって形なんだ。
「ごめんなさい秋先輩、ご迷惑をかけてしまって」
って言うんだけど、まあ、結局、僕一人でも行こうとしていたから、かえってこう言う形になってよかったのかもなあ、って思ってるんだけど、いよいよエレベーターが目的の階層に着くな、って思ったら、茉薙が前に出て、
「雪華に毛ほど傷をつけさせたら殺すからな」
って言われる。
やめてよ茉薙、僕は敵じゃあないから、そんな目で見るなよ。
その茉薙に、
「茉薙、わかってるでしょうけど……」
と釘を刺そうとする雪華さんに、
「うん、わかってる、殺さない、大きい怪我はさせない、大丈夫、わかってる」
と言うんだよね。
「いい子ね茉薙、じゃあ私を守ってね」
「うん」
そんなやりとりをして、茉薙、ものすごく充実した顔をしている。
この辺からきっと自覚とか自分とかってモノを持つ様になったんだなって、そんな風に見えた。
ともかくとても良い信頼関係が築けてるってのが見ていてわかるよ。
あ、エレベーターが到着した。
音もなくドアがスライドして開いた。
その前室には、2名の秘書らしき美人さんが頭を深々と下げて、そのまま会長室に案内と思いきや、なかなかおかしな動きをする。
彼女達は、僕らを通してそのまま背後に回るんだよね。だから「ああ、なるほど」って思うけどそのままやり過ごす。
完全に僕らの背中に回った時に、きっと命令されていたんだろうけどその懐からナイフ程度の刃物を出そうとするんだけど、
「それ、もう、俺の支配範囲に入ってるから、動かないよ」
と茉薙が振り向きもせずに言うんだよね。
そうだった、茉薙のスキルって、こう言うスキルだったね。
自分の周りにある刃物を支配下に置くと言うか操作してしまうと言うか、そんな感じのスキル。
彼女達は、動かなくなった刃物を懐で握ったまま、膝から崩れ落ちる様に座り込んだ。
その顔は二人とも蒼白で、緊張感が解かれたのか目には涙を溜めていた。
きっと、ここで僕らに、殺すのは不可能でもダメージを負わせておけって命令されていたのかなあ?
「そうですね、彼女達の働き如何によっては、このグループ企業の多くの人間が助すかる、とか、そんな感じに言いくるめられていたのでしょう」
って雪華さんまでも未だ喋ってない思う言葉に反応して答えてくれる。
なんか、この子、最近、真希さんに似て来たかなあ……
って思った瞬間の僕を見る笑顔が恐ろしかった。