第78話【北海道から離れた僕等】
その日、僕は北海道を離れて、首都圏の海賀グループ本社にいた。
もうね、そびえ立つビル群の中でも一際目立つ鏡でできたみたいな高層ビル。
「うおおおお」って、そのてっぺんを見るためにのけぞってしまってもあまりに近くで、空は見えるけど、建物の先端は見えない。
「秋先輩、行きますよ」
って、本日僕をリードしてくれるのは、同じくこのビル群の中でも、海賀本社のビルよりも、数メートル大きくて高い、大柴グループ本社のお嬢様、河岸雪華さんだ。
何をしに来たのかって言ったら、海賀の最後の一人である海賀一族に話をつけに来たんだよね。
本当に、この辺でもう終わらせないとね。
こっちもさ、異世界との接触を控えて、そろそろ獅子陣中の虫には退場を願おうと、どの道、異世界は滅ぶ。
だから、どう頑張っても、海賀の思い描く未来なんてこない訳で、この後に及んで何をしようとしているのかわからないけど、中でも未だ学生の孫は、僕と同じっ様に未成年な訳で、今後の生き方次第では十分更生出来る可能性があるわけだけど、彼を幼い頃から知ってる雪華さんは、きちんと納得した上で、これ以上、悪いことはしない様にと説得するから、と、僕が葉山の件で相当怒っていると思っている様で、この辺を落とし所にしてくれないかって、ことで、僕を踏まえて話し合いに来たって訳なんだよ。
ほら、僕って、異世界案件について責任者な訳だから、話し合いには参加の義務があるんだよ。もちろん雪華さんをあんな危ない連中の前にノーガードで出すわけにいかないけどさ、まあ、雪華さんには専用のボディーガードがいるから、その辺は心配してはいないんだけどね。
って、丁度、僕と雪華さんの間に入って、僕をキツイ目で見つめる茉薙は、
「なんだよ」
って言うんだけど、なんか、最近の茉薙って、僕の顔をモデルに作られているらしいけど、ちょっと顔つきが僕から離れて行ってる感じがするんだよね。
これはギルドのみんなも言ってることで、久しぶりに会った僕もそんな印象を受けたよ。
そんな事を思っている僕をよそに、
「大柴の者です、海賀会長に面会に来ました」
って受付の人に言うと、直ぐにこの会社と言うか海賀のグループでのトップらしき人が数名現れて、仰々しい歓迎の元、すぐに専用のエレベーターに案内されて、そのままこの建物で一番高い場所にある海賀会長室へと案内された。
なんでもここのエレベーターって世界最速らしい。
それでも、到着までにしばらく時間がかかった。その間、この建物の紹介とか、海賀グループの功績なんかの話をされたけど、僕の心には全然響かなくて、どこか浮ついた気持ちのまま、それでもどこか安心している自分がいて、ちょっと複雑な心境だった。
そっか、この前、僕の家を襲って僕を殺す事を命令した人がここにはいるんだな、って思ってたら、なんか変な笑いが出て来た。
見た感じ、普通の会社で、その裏では人を平気で殺してしまう研究や兵器の開発をしているんだな、って、そしてそこで得た何らかの利益を傘下のグループで山分けして、みんなで生きているんだって思うと、今、こうしている間にも北海道に落ちて来ている異世界となんら変わりはなくて、ともすると、その構造や形状は違うものの、僕らが通う北海道ダンジョンと何も違いはなくて、弱肉強食の頂点がここにあるんだな、って思うと、これらの経済界の理念や理想って、結局、誰かを犠牲にして、海賀の場合は命を取ることも平気な事を事業としてやっているって言うのが、これだけ明るい世界なのにどこか仄暗くて、変なやるせ無さになるよ。
きっと昨日でディアボロスくんが言っていた、僕らに対して行っていた事、そして僕らが知らずに行っていた事って事の形がここにはあるのかもしれない。
それでも、特に経緯は経過、ともすると歴史や事件事故の類は、どちらか一方的なものの見方、言い分、そして立場なんて、その立ち位置を変えるだけで、どうにも変わってしまうものだと言う事を複雑に歴史を積み重ねて来た、今の時代に生きる僕らはよく知ってる。