閑話13【そして少女達は勇者を目指す⑬】
英雄陣の時は、人とも戦って来ている愛生だった。
深階層の人間。
みんなそれぞれが強かった。
ダンジョンウォーカーも深階層になると強い。
それでも愛生のスキルを解放した時点で負ける要素はなかった。
倒しきれないダンジョンウォーカーはいた。
しかし、それでも、スキルの上での優位はあった。
だから、今の時点で驚愕を禁じ得ない。
今までの愛生が強いと感じていたダンジョンウォーカーとは、まるでその強さ、戦闘と呼ぶ技能の密度が違う。
言い方を変えるなら、『付け入る隙が見当たらない』と言う言葉の表現を初めて経験している。
こんな相手にどうやって勝てばいいのかまるで見当がつかない。
パニックに陥りそうになる愛生は、その前に言われてしまう。
「落ち着け」
そう嗜めるの蒼は既に愛生の背後にいた。
飛びのこうとする愛生の手を取り、
「こうだ」
と行って、アキシオンを持った手を斜め上に持って行かれ、
「足はここだ」
と踵を蹴られていい位置に誘導される。
「よし、このまま振り抜いてみろ」
「え?」
「いいから力を抜け、こうだ!」
蒼に掴まれた腕が、そのまま袈裟斬りに誘導される。
肩を押されて、足を蹴られ、同時に半身が前に出る。
「覚えたか?」
と言われて返事もできない愛生から蒼は離れて、その前に立つ。
「よし、今の振りを思い出して、今度は一人でやってみろ」
と言われて、目の間にいる蒼は一旦バックススッテップしてから、いきなり右手の手甲剣を振りかぶって襲いかかって来る。
横では間に合わない。このまま上げていた手を、アキシオンを上から下に斜めに振り抜いた。
その瞬間、蒼は真っ二つに裂かれる様に斬られる。
「きゃあ!」
思わず斬った方の愛生は叫んでしまった。
誘導されたものの斬るつもりなんてなかったから、本当に驚く。完全に致命傷に見え、しかも手応えもあった。
そして、斬られた筈の蒼は、全くの無傷のまますでに愛生の背後にいた。
「うむ、良いな、なかなか筋が良い」
と言うその顔は厳しい中に少しだけ綻ぶ笑顔があった。
そして、
「今の感じを忘れずに精進を続けるのだぞ」
と言ってから、
「よし、次だ、どっちからにする?」
と少し離れた場所で見ていたアテナと美保に声をかけている。
「お前たちは、直前のレクチャーは、藍だな、申受けている、未だメガオーク攻略に手間取っている様だな、お前から行くぞ」
とアテナを指名して、今度はアテナに指導を行い始めた。
そんな様子を茫然自失のまま愛生は立ちすくんで見ていた。
未だ何が起こったか、そして今何が起こっているのかわからないと言った様子ではあるが、少なくとも指導されたのはわかった。
言われた足の位置、体の動き、そして剣の軌道。これを一揃い教えてももらった。
思わず、真面目な愛生はその姿勢を保持していたので、アキシオンを言われた様に上から振り抜いて見ると、その剣の軌道も振り抜く手も音も違っている感じがしていた。
あ、私、手だけで斬ったんだな、と気がつく愛生は、蒼が認める様に優秀な様だ。
体の動きと重心の移動によって、身体を使って斬っているこの振りに早くも自覚していた。
いや、違うかな、もっとこんな感じかも、と気がつくと何度も反復練習している自分がいた。
そして、いつの間にか、その横にはアテナがいて、足の運びを練習していた。
右に左に、前に後ろに短い距離を動いている。
そしてその更に横に美保が加わって、剣道の素振りの様に、聖剣を振り初めていた。
そんなきちんと並んで練習する3人の前に、蒼は立って、
「今日はここまでにする、初めてのヤツもいたが、以前からの続きだったお前たちもなかなか見所があるぞ、今日言われた事を忘れない様に、今後もダンジョンを励む様にな」
と言って、ドロンと蒼は消えた。