表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1127/1335

閑話13【そして少女達は勇者を目指す⑪】

 そして、愛生に限ってその名も性能も他の聖剣とは異なり逸脱している。


 「愛生、だからアキシオンなのかな?」


 思い立った様に言うアテナに、それは無い、と思いつつも可能性の上では否定しない、他の二人であった。


 名前はともかく、本当に自分に誂えた様な剣だと愛生は思っていることは確かだった。


 なぜなら、この聖剣授与の時に、『聖剣の間』で、三柱神の一柱である、女神『ブリド』は、「特別だからな、大事にしろよ」、ダンジョン内の神様とは言え、随分フランクなんだなあ、と思いつつも、聖剣なのだから特別なのは、きっと他の勇者にも言っているのだとは思うけど、それでも、手にした瞬間それは実感になった。


 重さも、形状も、バランスも、持ち上げた瞬間に愛生に対して調整された気がしたのだ。


 こう言うものなのだろうか?


 そう思うものの、手にして持ち上げる動作の中で、この聖剣アキシオンが自分に対して形を整えているというのが得体の知れない明確な結論。


 この重心はきっとあの嬉々烏のものだ。


 一度手に馴染んだかつての名刀の形状にこの剣は合わせてくれたのだと悟った。


 もちろん自分に対して誂えた剣なのだから、このフィット感は当たり前と言ってしまえばそうではあるのだが、このアキシオンに限っては、日々変化して、自分に沿って来ているのが握る手、振りかざす感覚で理解してしまえるのだ。


 毎日変わる体調の変化や、気分や服装によるちょっとした心身のズレ。そんなものすら付き合ってくれている気がする。


 嬉々烏を持った時は、名刀のしっくり来る感覚に驚き、感動したものではあるが、このアキシオンに限っていうなら、そんな生易しいものでは無い。


 自分にとっての唯一無二。


 ともすると、この剣さえあれば、この剣が自分に寄り添ってくれるなら、きっと魔王すら倒せると、そんなところまで愛生の思考を走らせる。


 以前、『名刀嬉々烏』は『光子舞踊』の加速の途中で、何に当たる事もなく、剣は壊れてしまった。


 もちろん、それは仕方のないことであり、刀の作り手に言わせれば、そもそも光速で振り抜く事を想定されてはいないのだから当たり前だ。


 しかし、このアキシオンは、未だその硬度や靭性において限界が知れないのだ。


 自分の全力についてきてくれる剣。どんな扱いでも、どんな衝撃でも、どんな速度でも折れない剣。

 

 愛生の安心は、安全となって絶大な信頼は愛着すら感じている。


 まさに自分の為の剣。聖剣どころじゃ無い。それ以上の剣。


 あの時の工藤真希さんの指導に始まって、魔法に聖剣。


 以前の英雄陣の時とは比べ物にならないほど、充実している愛生であり、何より信頼できる仲間にも恵まれている。それはアテナに美保も同様だった。


 「じゃあ、このままメガオーク倒しに行く?」


 とアテナは二人に尋ねる。


 「だね、この勢いは大切にしないと、だってドラゴン倒したからね」


 美保の意見に愛生も賛成だった。


 三人で輪になってそれぞれの装備を点検する。


 大丈夫、行けそうだとそれぞれが思う。


 じゃあ、出発しようとするとアテナが、


 「あとは忍者かなあ…… 気持ちが折れるから今日は出ないで欲しい」


 とか呟く。


 「え? モンスターで忍者とかいるの?」


 「うん、いる、何度も出会ってる、全く敵わない、強すぎるよ忍者」


 「出会ったら逃げるって形を取ればいいのかな?」


 と愛生は、若干、アテナのいう言葉を飲み込めないまでも言われた内容を把握し判断するのであるが、


 「ううん、大丈夫、『稽古』をつけてくれるだけだから」


 などとおかしなことを言い始めるアテナに、愛生の思考はまるでついていかない。


 「たまに現れてさ、剣の使い方とか、特に戦闘の事を教えてくれるんだよ、他の勇者も会ってるって話だよ」


 ダメだ、やっぱり言っている意味というか状況が飲み込めない愛生である。


 忍者? 稽古? 


 「今日は藍ちゃんかな? 紺ちゃんかな? 巨斧持ちの千草ちゃんは見た目だけで心折れるよね」


 とアテナが美保に言っている。


 どうやら、その忍者の名前まで知っている様だった。


 そんな話をしながら、部屋を出た彼女達は、数分後に予想通りに忍者に出会った。愛生目線で言うなら本当に忍者に出会った。


 通路の合流地点、広い回廊で彼女はここを愛生達が通るのを知っているが如く静かに佇み、一人立っていた。


 その姿、その装備を見て、アテナはポツリと呟く。


 「うわ、最悪、よりによってハイマスター忍者だ」


 闇に溶ける様な黒装束(の様に見えるジャージ)、両の腕には拳から刄となる恐ろしくも美しい手甲剣。


 何より大気に溶け込む様な、膨大にして無我とも言える矛盾した存在感。


 もちろん、遭遇感は無い。


 愛生はもちろん、忍者の存在を知るアテナも美保も知らない。


 かつて、このダンジョンの中で、最強の位置まで上り詰め、今も人によっては彼女こそ最強だと語るものは少なくない。


 現代までの時の中で洗礼され、北海道ダンジョンにより最適化された最強の忍者、多月 蒼が姿を表せたのである。

 

 

 

 


 

 

 


 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ