閑話13【そして少女達は勇者を目指す⑩】
これは感覚であり、経験ではない。
つまり、赤い色を赤と判断できる、知識と感性が混ざり合った様な、自分の中にある視認にも近い確実な感覚。
ここで自覚するのは、その遭遇感覚は育つと言うことがわかってきた。
つまり、どんな敵と対峙しても、ダンジョンの深部に伴って、判断できる様になって来ると言うことだ。
そして、何度か経験しているうちに、それは方向性すら指示される感覚がある。
今のドラゴンへの戦闘も、どこをどうすればいいのかは、ほとんどこの遭遇感から始まる感覚からきていると、愛生は理解していた。
だから、かつて、深階層の入り口付近でゾンビの大群に襲われた時も、この感覚を持つ人が数人いれば助かったかもしれない、などと思いつつ、もう過去の事だと蓋をする愛生でもあった。
ちなみに今彼女たちが対峙したドラゴンがミディットと言われる、本来は深階層を歩いているよなドラゴンに近く、若干、防御力が低い程度に抑えられている調整されたドラゴンである。
もちろん、ダンジョン内のモンスターの調整など知らない彼女達は、それでもドラゴンの初撃破にテンションも上がっていて、
「これなら、もうメガオークなんて目じゃないね」
と美保は目を輝かせていた。
そう、今日は、美保とアテナの念願のメガオーク討伐に来ていて、その途中で、このドラゴンとの遭遇だった。
アテナは出現した宝箱と絶賛格闘中である。
なんとか開けて、出て来たのは、『ドラゴンキャップ』という、竜の顔(ディフォメル有)を模した帽子で、早い話がカブリ物である。ちょうど口を開いたところから顔が出る様な作りになっていて、装備することによりそれなりの防御力と引き換えに、『真面目にやってんの?』とふざけた見た目を手に入れることになる。その見た目に関して「うええ」と呟くアテナを見ておしはかれるレベルである。
それはともかく、美保はまじまじと、片手にした見た目は地味な愛生のロングソードに、
「凄い切れ味だね、愛生の聖剣」
「うん、本当に驚いている、前のも凄かったけど、今のこのアキシオンは比べ物にならないくらい凄いの」
とその剣を見て呟く愛生である。
見た目は、三人の中では一番地味な形。
それを手に、「ホーマック(北海道でホームセンターといえばここ)で買って来たの」と言えば誰も信じるくらいの大量生産型の見た目だ。
なんの飾りも、工夫も無い地味な形。どこにでもあるロングソードに見えるがその性能は凶悪であった。
その頑強さと切れ味に関して言えば、以前使っていた嬉々烏とは比べ物にならないほどの性能である。
何より、愛生の固有スキルである、速度に対してほとんと上限の無いデタラメな『光子舞踊』に関して、全力を使っても損傷の心配がない。
以前は、大分遠慮しながら使っていて、あのゾンビに襲われた時には、初めて必死になるがあまり、嬉々烏は超加速の入り口付近で、簡単に折れてしまったのである。
しかし、このアキシオンは、それがなく、今も肩のあたりで始めた加速は剣の先端で光の99,9999999%程度になっているはずなのに、全く損傷もなく、また、そこで生み出されるはずの衝撃波すら、剣自体が吸収している様子も見られる。
そして、何より切れ味だ。
強固にして靭性に富む、ドラゴンの鱗を易々と切り裂く。
驚くべきことに、その切れ味は、愛生の手になんの抵抗も残してはいないのだ。空を切るほとに、硬いドラゴンの首を跳ねても手応えも残さない。
聖剣と言えど、ドラゴンとの対峙は難しく、その聖剣の使い方として、中階層あたりの聖剣をもらったばかりのドラゴンになれない勇者は、『突き』がメインの戦いになるのが定石である。
「本当に、地味な剣とか言っちゃってごめんね」
と、初めて、このアキシオンをもらった時に思わずつぶやいてしまったアテナは改めて愛生ではなく剣に向かって謝罪していた。
それでも、女神に渡された際には、リボンがついていて、それが帰って急ごしらえの贈り物みたいで、さらに価値を下げている感が否めなかった。
さすがに、そのリボンは外してあるが、どこかで見た覚えのある愛生であったが、どこにでもあるタイプのものであったので、今は家に置いてあり、その存在も忘れてしまっている。
「でも、なんだろう、愛生のアキシオンって、私たちの聖剣とか規格と言うか、名前とか大分違う気がするよね、聖剣自体がそうだど、どこか特別って気がする」
美保が言う言葉に、
「あれじゃない、ネタが切れたんだよ、だって私達の聖剣の名前って、『地方名』じゃない、勇者も多いからみんな行き渡っちゃたんだよ、トマムとかもあったからね、でも愛生は違うよね」
正確にはアイヌ語である。北海道の地名はアイヌ語が使用されており、北海道の地方は漢字表記となっているのは当て字に過ぎない。