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閑話13【そして少女達は勇者を目指す⑨】

 ドラゴンのブレスが、扇ぐ様に前面を薙ぎ払った。


 中階層深部の広い一室を覆い尽くす様に炎が広く横に拡張される。


 アテナが逃げ遅れた。が、抵抗はできたのだが、体を庇った両腕の表面のジャージ以から出てる部分がコンガリと焼かれる。


 「アテナ!」


 美保の叫び声。


 「美保! 次が来る! こっちいいから備えて!」


 アテナが自分よりも美保を心配する様に叫んでいる。その様相は自分の怪我より仲間を案じている様子がうかがえた。


 ヒリヒリと、火傷の痛みに顔を歪めるアテナ。しかしアテナ自身も自覚するが動けなくなるほどではない。しかもドラゴンの意識は今、こちらに向けているから、他の二人が動きやすくなっていることで、この戦局に関して、次の行動への布石になれたという自負もある。


 以前はゴブリンに少し引っ掻かれただけで大騒ぎしていたのであるが、随分とこの辺は成長している。


 すでに、対峙するレッサードラゴンは次の動作に入ってしまっていた。


 つまり、もう一回、炎のブレスが来る。


 散った3人を同時に薙ぎ払えないドラゴンは、やはりダメージを負って一番動きが悪そうなアテナを狙っている。


 しかし、


 「光束せよ、大気に集まる光度よ、収束し、我が敵を貫け! レ・ライ!」


 愛生の声とともに、彼女の前面に収束する光の矢が、ドラゴンに向かって、またたくレーザーの様に走って行く、そして同時に、アテナの腕の火傷も治癒の光に包まれる。


 愛生の持つ魔法の中では下位のこの呪文、流石にレッサー種と言えど、その厚い鱗は切り裂けない。


 しかし、この魔法は決してドラゴンにダメージを与える目的ではなくて、注意をこちらに向ける為の攻撃であり、何より愛生の魔法スキルのほとんとは、攻撃に付帯して仲間に様々な効果を得ることができる。


 そして、この魔法は、仲間全体に若干の回復を寄与してくれる。


 降り立つ癒しの光に、見る見る火傷が消失して行くアテナ。


 愛生は、『聖剣アキシオン』を携え前に出る。アテナへの呪文の効果を確認して若干出遅れた感じではるが、そこはなんとかなると自信はある。


 レッサードラゴンの爬虫類じみた顔が、愛生の方を振り向いた。


 その横っ面に、氷の槍が当たり、砕けた。


 美保の援護だ。鉄のサビだ色の様なドラゴンの瞳にコンマ数秒の躊躇と僅かな隙が生まれる。ドラゴンの攻撃の意識が3人の連携により散ったのだ。


 瞬く愛生の接近、手の聖剣アキシオンが亜光速となって疾る。


 同時にレッサードラゴンの首が空に舞った。


 俗に言う、クリティカルヒットが決まる。


 首を失ったレッサードラゴンが崩れる様に倒れて、そこで戦闘は終了を告げた。


 愛生は、ともかくブレスをまともに食らったアテナを心配していたので彼女の方を見ようとして、「アテナ!」


 と叫んだ時には、もうすでに自分に抱きつくアテナがいた。


 「ありがとう、愛生、腕と顔、火傷すぐに治ったよ、元どおりの美人だよ、ほら」


 と、顔を自分に差し出す様に、満々の笑みで感謝してくれていた。


 美人かどうかは、個人の価値観はさておき、どうやら平気な様で愛生は安心する。


 レ・ライは愛生の持つ魔法の中でも下位の呪文であるので、その付帯効果である治癒の効果も小さいものだと疑っていたが、あの程の傷は治せた様でホッとした。


 「いつ見ても、便利だよね、愛生の魔法って、攻撃と回復が同時だもんね」


 と、剣を腰の鞘に収めながら、美保が言う。


 「ううん、助かったよ、ありがとう美保」


 と、先ほどのアシストに感謝する愛生であった。


 ちなみにアテナも美保も、回復系の魔法は使えるのではあるが、まだ戦闘中に出せるほどでもなくて、特にアテナは使いたがらない。理由は、頭蓋骨内の後頭部を撫でられる様な感覚が来るのが嫌なのだそうだ。


 美保に言わせると、「そんな感覚ないけどなあ」との事で、個人差があるらしい。


 「でもびっくりした、いきなりドラゴンなんて、ここまだ中階層だよ」


 とアテナが言うのではあるが、以前から中階層の深部ではレッサー種ならドラゴンは出る。


 しかし強さにおいては、若干調整が加えられているので強くはなっているのではあるが、そんな事実は、彼女達は知らない。


 それにしても今愛生を驚かせているのは、先ほどのの遭遇から戦闘終了に至るまでの、あの『遭遇感』である。


 ドラゴンに出会った瞬間に、普通なら、その大きさ、威圧感、何より姿に驚き、恐怖するはずなのであるが、愛生を含む美保やアテナの中にあるその感覚は、より本能に近い所へ『対抗できる』と判断する材料を。遭遇感自体が与えてくれる。


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