閑話13【そして少女達は勇者を目指す⑦】
聖剣と魔法を待っていた愛生は、先に、魔法の方の順番が回ってきた。
なんでも、魔法スキル添付に対して、受け取り側で、グループで行われた不正があったようで、その人たちがゴッソリといなくなったので、愛生の順番が一気に前倒しになったそうだ。
その不正をした人達は、英雄陣がいなくなった後にできた新興グループらしくて、名はあるものの、割とマイナーな集団というか、それほど活躍もしていないので、知名度は低く、だから当然、愛生も知らない集団らしい。
なんでも、一人で何度も魔法を覚えようと、珍妙な変装で手を変え品を変えて、一人に対して、13魔法を添付してしまったと言う話だ。
その話の中で聞いた事だが、その人物というかグループを担当をしていたD &W新人の女の子は不正に気がつかなかったことで相当気を病んでしまって、特にあの魔法特化集団のトップな双子に心酔していたために、懺悔の意味で一度は自分の命まで断とうとしていたらしく、それは未遂に終わったらしい。
それでも悪質とは言え、特に、魔法スキル添付の処置は何度も受けらませんとはどこにも書いてなかったし、聞かれれば、「ダメ」ですと言われるって程度なので、不正を行った犯人探しも割と消極的らしい。
特に、このD &Wのトップの二人は、「ちょっと面白かった」程度の気持ちらしくて、どちらかと言うと、頑張ってくれていた担当少女の方ばかりを心配している様子だったとか。
ともかく、数日早く愛生の番が回ってきて、D &Wを統括するトップ直々に指導を賜ってしまい、恐縮するばかりの愛生であった。
此花椿。その姉の此花牡丹。
この2人を知らない人はいない。
英雄陣でも、出会ったら戦闘は避けるように言われていた人物。
かなりのスキル持ち集団であった英雄陣ですら、戦端を開いたら全滅させられるおそれのある人だと聞いていたから、もっとずっと怖い人だと思っていたけど、何をどうしてかなかなかの美少女で、あの工藤真希とも違う方向で際立った綺麗さを輝かせている。
このダンジョンにおいて、魔法スキルの頂点。
そう言われる彼女のカリスマは、その見た目の美しさも追加して、どこか近寄りがたく神々しい。
そんな風にバカみたいにポカンとして、見ている愛生に、
「ありがとう、あなたもなかなかの美人よ」
と言われて、恐縮してしまう中、あれ? 喋ってないのに……、と驚くと、
「最終的に魔法スキルってね、その場の流れを読むと言うか、現象の言語化なのよ、だから、こうして私があなたにと対してしようとしている事、魔法スキルを組み込むってことはね、あなたのこと全部見えてしまうの、関係ないところは、見えないようにしてるけどね、でもあなた、少し変わってるからちょっと深く入っちゃったかもね」
つまりは、自分のある程度の経歴や経験、そして考えを読まれてしまうと言う事だと、感の良い愛生はすぐさまに気がつく。
思わず顔が真っ赤になってしまう。
「いいの、いいの、気にしないで、あなたのような女子なら別に何を思ってもたかがしれてるから、男子なんて酷いものよ」
とウンザリするような顔で言うから笑ってしまう。
そして、
「あなた、愛生さんだっけ? 英雄陣の?」
そんな質問に、
「今はただの、滝壺 愛生です」
特にどこの組織にも所属していない、強いて言うならこんな自分を誘ってくれた友達と共にダンジョン攻略をしている人達の仲間だ。
だから、そう答えると、
「そっか、いろいろあったんだもんね、でもみんな解決でしょ? まあ、あいつらが動いたんだだから当たり前よね」
そんな風に言われて驚く愛生。
「それはどう言う事でしょう?」
すると、椿は言う。
「さあね」
完全にはぐらかされているのがわかる。
そして、突然後ろか、深めにローブを被った椿と同じ顔が現れて、
「椿、その言い方はよくない、今のは所謂『引き』よ、『次回へ続く』くらいは言ってあげないと」
と嗜める様に言う。
「そんなの私の勝手じゃない」
と言ってから、
「別にここにはお喋りしにきたわけじゃないんだから、ねえ」
と同意を求めれれるが、気になるものは気になってしまう。あの時、がっくりと落ち込んだ日に、橋から飛び降りてしまおうかと思った日を境に事態が急変したことに誰かが関わっている、みたいな事を言われると当然気にしてしまう愛生だった。
それに、気になることもある。