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閑話13【そして少女達は勇者を目指す⑥】

 海賀を取り巻く一応は上の方の人間はそれなりに会話していた様だったが、もちろんそんな中には参加などさせてくれない。こちらから挨拶しても、鼻で笑われるだけだった。


 選ばれたとは言え、当時はそんなものかと思っていたものだけれども、今思うと居心地の悪い場所だったと、そんな風に思う愛生でもあった、


 良く彼らが使っていた言葉が、『幹部』と『兵士』という言葉。そして、愛生は間違いなく兵士の方の括りだった。


 これは、一緒にダンジョンの中に入っていた『兵士』に位置付けられた人から聞いた話で、彼らの言うところの『兵士』にはいくらでも代用品はいるんだとか、そんな話。


 だからだろうか、彼らは常に後方に下がった位置から、指揮を執る訳でもなく、ニヤニヤしながら戦う私達を見ていた。


 それでも、彼等、いや、あの海賀の視界と言うか、その側で戦う時、気持ち的にテンションと、身体能力が上がる気がした。もちろん、そう思うだけで、それは気のせいかもしれないが、戦いは気持ち良かった。


 そんな事実を思い出してはゾッとする。


 あの感覚は一体、なんだったのだろう? そう錯綜することさえ悍ましいと感じてしまうのだ。


 まるで、体を支配される感覚。


 髪の毛一本から、足の指先まで隅々まで、あの海賀が入って来る様な感覚。


 身震いがした。


 「愛生、顔真っ青だけど大丈夫?」


 そんな風に声をかけられて、驚く愛生。


 「ごめん、嫌な事思い出してた」


 今は、中階層でオークの群れと戦闘中だった。


 まだ愛生の聖剣はできないものの、来るべきメガオークとの戦いに向けて、その近種であるオークを狙って戦っている最中であった。


 もちろん、ここは聖剣持ち勇者である美保とアテナだけでも十分やれるのではあるが、オークは獣顔のくせに頭がいい。いや獣だからこそ、弱そうなところを狙って来るのだろうか? 一番装備の薄い、愛生の方へとその戦力を向けて来ている。


 一応、中階層も深部とあって、オークも切れ味が悪いとは言え、巨大な鉈の様な刃物を持っている。


 数も10体ほどだから、油断などするべきではないのであるが、何故か愛生は過去にとらえれらた思考によって体の動きも鈍くなっていた様であった。


 「愛生! ごめん、そっち行った!」


 アテナが叫ぶ。


 ホントだ、こっち来た。


 オークの巨体にそこそこの素早さ、何より大きな見窄らしい大剣を振りかぶって来るその姿は、そこそこにプレッシャーがある。


 でも、まあ、2体だし、その姿と圧力を感じても、愛生、まだ空間は残されていると感じていた。


 そして、感じる。


 あ、これ遭遇感ってヤツだ。


 特に怖いとも思えなかったから、この感じ、以前にも感じていた事を実感する。


 そして、判断する。


 これなら行ける。


 この辺の感覚への自覚が重要だったんだ。


 モンスターに対して、恐れや萎縮、逆に高揚や荒ぶる怒りなどでない、ただ、そこにモンスターがいると言う感覚。


 このフラットにも近い感覚で、その後を決めないとならない。


 だから、あの時、工藤真希は言うのだ。ここが出発点だと。


 きっと、この感覚は育つ。


 もっと言うなら、あの時の遭遇感に経験を溶かして行く事で、もっと多くの判断ができるよになる事を、ここで愛生は自覚した。


 きちんとしたオーク2体の遭遇感、そして、ここは超えて行ける事を理解できている。


 大丈夫。全身による『光子舞踊』など必要もない。


 こちらに対しての明らかな敵意。いや排除しようとする意識。


 まるで人の体に入ったバイキンの様な扱い。


 確かにダンジョンを体と例えるなら、ここに入って来るダンジョンウォーカーはみんなそうなのかもしれないと、愛生は思いつつも、このオークを見て、これがダンジョンと言う体にとって有用な成分だとも思えないのもまた事実であった。


 オークを含むモンスターの大部分が醜悪というか、悪に寄った見た目に感じてしまうの、そんな考えも、いわゆるひとつのヘイトなのかもと思ってしまうが、こうして武器を持って襲いかかって来るのだから、こちら側の排除の意思は正しいって認識はできる。


 戦っている最中だと言うのに、全く弛んでいる自分と、いい意味でゆとりがある今の環境に、体もゆったりとリラックスしているのがわかる愛生であった。


 この硬いオンコの木の棒でも十分いける。


 大股で近づくオークに対してまるで頭を差し出す様な前傾姿勢。


 光子は微量に、この棒に走らせる。


 最接近からの愛生の踏み出しによる加速が加わり、大鉈を振るう前に、愛生の2斬が走る。


 木の棒とは思えない斬撃の前に、オークは体を斬り裂かれ2体は倒れて行った。


 そんなオークを確認もせず、愛生は、自身の体、そして意識を、オークとの接触前からトレスして、もう一度、頭の中でその接触点から行動をおさらいする。


 遭遇感からのオークへの接触のイメージ、そして、致命傷を与える為の姿勢からの斬撃。


 まるでロスのない動きに満足する。


 大丈夫。


 もう体は硬ばらない。


 私は乗り越えた。


 そして以前とは違う今に立っていると自覚する。


 「すごい、愛生、今の木の棒だよね? 完全に斬ってるよ、これ、どうやったの?」


 と纏わりつくアテナに、


 「本当に強いんだね、仲間になってくれて助かるよ」


 と控えめに美保が言う。


 こんな会話が、こんなやりとりがダンジョンでは当たり前なんだろうけど、それを知らない愛生はそれが新鮮で嬉しかった。


 そんな愛生はまだ気がついてはいない。


 あの時の、冷たさ、乾き具合を未だ本物だと心のどこかで思っている事を。


 それは一度支配された者のみの刻印であり、決して拭うことができない現実は、未だ愛生の近くににある事を。


 何より、見えないと言うだけで、それは決して遠き事でないことも、今の彼女は知らないでいる。


 彼女の心を縛る『掌握』は未だ彼女から手を離してはいないのだから。

 

 

 

 

 

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