閑話13【そして少女達は勇者を目指す⑤】
愛生は無事、滞りなく勇者登録を済ませた。
手続きはとても簡単で簡素だった。
どんな剣を希望するか?
そして、ギリギリ、鎌形態、槍形態くらいまでの形状選択の幅があり、どの辺を希望するか?
程度の内容で、愛生は至って普通のロングソード形体を希望した。
意外な事に、受付の女の子から、年齢は同じくらいの女子だろうか?
「刀状の聖剣も可能ですよ?」
と逆に尋ねられ、まるで、かつて『嬉々烏』と言う日本刀を自分が所持していた事を知っている様な口ぶりだったから、ちょっとびっくりしていたら、
「ごめんなさい、あなた、刀の方が似合う気かしたから、ロングソード系もいいですよね」
と、その進めて来た理由をこちらが聞きもしないのに答えてくれる彼女は、家がダンジョン用に剣などを作っている製作所なのだとか。
育ちの良い、無理の無いお節介を上品に感じた。
だからだろうか、どこか気品のあるお嬢様な雰囲気を醸し出している。
先程の工藤真希さんといい、今の受付の女の子といい、ギルドって、かなりしっかり人を見てるな、と愛生はちょっと感心していた。
やはりダンジョンに通う、自分の様な人間の安全を管理してくれる人達として、人を見る目があるのだろうと、これなら英雄陣ももっとギルドを頼れば、ダンジョンで上手くやてていたのでは? と、できもしない過去の事実を浮き彫りに出し、比べてみては虚しい思いをした。
そして、その日はそこでダンジョンは終了して、それから1週間をかけてゆっくりと中階層までたどり着く。
愛生を含め、美保もアテナも、これだけ丁寧にダンジョンを隅々まで歩いたのは初めてだった。
ひとまず、聖剣を持つ二人はそれなりに強くて、先に魔法を覚えに行こうと言われて、既に、氷の初期魔法と、中級、上級を行使できる美保に、同じ段階で、別種の闇魔法を行使できるアテナも付き合うので、中階層にある、魔法綻ぶ祠というところまで行けばいいのだと言われて、一人で行くつもりであったが、美保もアテナも付き合ってくれた。
その場所は、中階層にある温泉施設の一角に用意されたセイコマートの隣にこじんまりと一室用意されていて、そこもまた長蛇の列になっていた。
こんなに混むなら予約制にすればいいのにと愛生は思うのだか、この列は実は、その整理券を受け取る為の列なのだそうだ。
運が悪いと、受け取ってから、1週間以上待たされる例もあるのだとか。
それでも3時間ほど並んで、魔法スキル開眼所『A Believer 』とかいいう看板のかかった中に案内され、数名のローブを深くかぶった女子にジロジロと見定められた後、
「この子、珍しい特性もっているわね、牡丹、見てみて」との言葉に、同じ様な背格好のローブを着た女子がジロリと見つめて、「愛生、滝壺愛生、同じアキって、かぶる、笑える」と笑い声を咬み殺している。
英雄陣にいた頃から思っていた事だが、魔法スキル関連の人って変わり者が多いと言うことを愛生は知っていたので、特に何も思わず、それよりも魔法スキルなんて自分が身につけられる方に驚きを隠せないでいた。
それでも、自分を誘ってくれた二人とも魔法スキルがあると言うのも最初は信じられなくて、それを見るために、わざわざ敵のいる中階層まで行って、見せてもらった。
「引き裂け氷の刃! ダリハリク!」
美保の放つ魔法は氷の槍を複数作り出し、前面の敵を貫き凍てつかせる。
「来たれ漆黒! 這いずり奪え! マロウ・ルイ!」
アテナの魔法は、自身の足元か、まるで自分の影を伸ばして、そこに接する敵の体力を奪い、驚く事に、自分の体力に変換する、いわゆるエナジードレインというヤツだ。
彼女達の魔法スキルによって、20体近いゴブリン(緑帽子)があっという間に倒されて行く。
思わず、見学しているだけの愛生は拍手をしてしまう。
「すごいよね、私も自分じゃないみたいなんだ」
とアテネが言うと、
「ホントにさ、私も、この下位呪文で魔法スキルの入り口って言われる小氷の呪文でさえ、羨ましく思ってみていたんだよ」
と美保もそんなつぶやきを漏らした。
なんでも、話によるとそれぞれ違った種類の魔法適性があるとかで、
「美保は人間が冷たいから、氷の魔法なんだよ」
とかアテナが悪態を吐くと、
「何言ってる、アテナは隠れ根暗だから闇なんだろ?」
などと口喧嘩を始める始末である。
その言い分というか、デタラメな根拠に思わず笑ってしまう愛生であった。
それでも闇魔法は珍しいらしく、愛生も変わった適性と言われていたので、自分はクヨクヨとマイナス思考で陰々滅々に考えることが多いので、きっと闇魔法かもしれないと、そうしたら、2対1になってしまって、美保が若干可哀想に思える自分の思考もどうかしていて笑えてしまえる愛生であった。
だから、自然に笑える今はとても楽しいと思えた。
つまり、初めて、ダンジョンの中を、この北海道ダンジョンを楽しむ自分に驚きもしている。
こんなにこのダンジョンは明るかった事。
広かった事(道幅的な意味)。
温泉やセイコマート。
深階層には宿泊施設もあるという事。
驚くくらい人がいる事、そしてみんな好意的な事。
すれ違う他のダンジョンウォーカーが皆、気さくに声をかけてくれる事。
中にはそうじゃない人達もいるけど、皆、概ね『ダンジョンお疲れ』と声をかけて、少なからず情報を教えてくれる。
英雄陣の時には考えられない程の、平和で、楽しみに満ちたダンジョンである事に気がつくと同時に、自分が所属していた英雄陣の方に違和感を感じてしまう。
仲間内でも会話なんてなかった。