第108話【大賢者の責務】
あ、生きてた。
よく見ると、僕、ラミアさんに覆い被られていた。僕はラミアさんに守られたんだ。
真っ暗になったのはあくまで視覚的な事だった。痛みも無いし、意識もあるから、大丈夫だった。
春夏さん、角田さんは平気みたいなんだよね、なんだろう? この黒い渦とな人達みたいに耐性があるんだろうか?
ラミアさんが、制御できない、僕らを制御するこの状態異常だって、故意にしてる訳じゃあないけど、その事についても責任を感じているのかも。ともかく僕はラミアさんに体を張って守れれたんだ。
切られたのはラミアさんの肩で、僕は全くの無傷。だからラミアさんの新しい傷、そして出血に驚く僕だ。
「うわ、ラミアさんが!」
僕を抱きかかえるその手に力が入っていないのがわかる。もう、ラミアさんは瀕死に近い。それでも、彼女は僕を覗き込んで、微笑む。「大丈夫?」って囁かれているようだ。
くそう!
「あれなに? モンスターって感じじゃないけど、人なの?」
僕は聞いた。
「防御魔法で限界まで防御を上げた人間の姿です、視覚的にあんな感じに見えますし、生半可な攻撃では当たりません」
と端的な説明をしてくれる角田さんだ。相変わらずいろんなことに詳しくて助かる。
そんな事を言っている間に、ラミアさんの傷が増えてゆく。狙っているのは半死半生中のラミアさんではなくて僕だって見え見えの攻撃だよ。
「こいつら、秋さんがリーダーってわかって集中してます、蛇女がやられても、その体の下にいてください、その間にこっちでなんとかします」
やらせるわけないじゃん。ラミアさんは助けるんだよ。
僕はラミアさんの庇護から抜け出そうとするけど、ラミアさんがそれを許してくれない。本当に、死んでしまうまで僕を守るつもりでいるみたい。
なんとかしようと春夏さんも木刀を振りつつけるも、黒い渦は歪み、揺らいで、彼女の振るう攻撃を受け付けない。
本当になんとかならないの?
ダンジョンはシビアな世界で、現実だから奇跡なんて入り込む余地もないけど、ここはなんとかできてしまう方法ってないのかな?
飛び回っている春夏さんの後ろで、角田さんは呟く。
「ハウル、ダイゼン、ラホーピック、ジュエンダ」
なに、今の?
あ、でも、今ので僕の体は一気に軽くなる。
ああ、動く動く! なにかしらの状態変化していた体が解除された解放感に感覚。
そして、その黒い渦はみるみるうちに人の姿になってゆく。黒いローブを頭まですっぽり被った姿の人間が3人、僕らの前に姿を表した。黒い人たちお互いを見てびっくりしているようだった。動きが止まっているもの。
それにしても、まさか、分解したの? 敵が掛けていた魔法の効果を?
「3つの防護魔法の重ね掛けでしたか、特定するのに時間がかかりました。いやお恥ずかしい」
とか恐縮してしまっている角田さん。
「角田さんて、魔法が使えるの?」
びっくりした。どう見てもノービス、基本スキルが『根性』でクラスが『ヤンキー』な前衛な人って勝手に決めつけていたからさ、本当にびっくりした。
「ええ、こう見えても意外に魔法は得意なんですよ」
まあ、鑑定とかするしね。意外に物知りなのは、それなりの経験を積んだダンジョンウォーカーだからだと思っていたんだけど、何もかも力づくで粉砕するようなそんな人間だとは思うものの、見かけによらずインテリジェンスな人じゃないかって思ってたけど、まさかの魔法の人だった。
僕は思わず興奮してしまって、だから本音として、
「すごいよ、角田さん、凄い頭いい感じに見えますよ」
って鼻息も荒く言ってしまってから、あれ、なんか馬鹿にしている感じかなって、思ってしまった。
「お、秋さん、褒めてくれてますか?」
「凄いね、角田さん、攻撃、回復、補助系、全部行けるなんて、まるで賢者みたいだよ」
って言ったら、
「まあ、そうですね、古いやつらにはよく言われますね、一応はギルドではそれで認定はうっけてますけどね」
うそ、マジ賢者??
「じゃあ、僕、ダンジョンに入る前から、賢者とサムライでパーティー組んでたって事?」
「ああ、そうですね、そうなりますか」
って言ってから、ちょっと憂いを秘めた目をして僕を見つめる角田さん、
「まあ、『規格外』に制動をかける仕事も受け持ってますから、自然な流れなんですよ秋さん、今はまだ一しかスキルが顕現してませんが、『全知全能』ってスキルを半分もってる相手なんで、ダンジョンどころじゃなくて、世界すら形をかえてしまう相手ですからね」
って言うんだ、ふーん、よくわからないけど、大変なんだな、そんな事情がね……、話の中身はわからないけど同情してしまう。