閑話13【そして少女達は勇者を目指す③】
滝壺愛生、木下アテナ、佐々木美保の三人は、その日、大通り公園のパンジーの咲く花壇の前で待ち合わせて、落ち合った後に、4丁目ゲートからギルドに向かった。
地下一階の『スライムの森』。
今は修学旅行シーズンではないとは言え、この広く広大な室内には、それなりの人が集まっていた。
「みんな『勇者登録』かなあ……」
アテナはそんな人集りを見てウンザリする様に呟く。
そのまま、この一角にあるギルド本部に行って、愛生の勇者登録を済ませて来ようとギルド本部に向かうと、かなりの数の勇者登録希望者が並んでいた。
整理番号のカードをもらって、そのまま待っていようか、どうしようか、と思っていると、せっかくだから、スライムの森でも見学しようと言う話になって、乱立する大きな石のブロックは確かい見応えがあるな、と思う愛生がいて、それなりに楽しみながら、ウロウロしている。
英雄陣にいた当時、愛生はギルドを無視してここ、地下一階どころか浅階層などすっ飛ばしていたから、改めて見ると、確か面白い。
そして、スライム専門にダンジョンウォーカーをやっている子達もいて、愛生達の近くでも床を見てカンカンと叩いている。
そんな物珍しそうに見る途中に彼女達に声がかかる。
「おはよう、よく来たべ」
そんな挨拶に戸惑う三人。
今の時間はお昼を大分過ぎている時間な筈。なのにおはようって?
そう思い、愛生は声の方を見ると、そこには、自分よりも若干背の低い女の子がニコニコしながら自分を見つめていた。
小さくて華奢な体を、ギルドの腕章をつけてジャージを身につけた、言うなれば美少女。
アイドル級の容姿に、ともかく驚いてしまう。
「やあ、みんな、スライムの森は初めてかい?」
と聞かれる。
「いえ、一応はみんな中階層までは行けます、で、この人は深階層組です」
と美保が言うと、
「そうかい、したっけ、今、自分達の周りに何かいるのに気が付いてるべか?」
と言われて、三人とも????となる。
その中で、アテナは、
「あ! この人知ってる! 工藤真希さんだ!」
驚きのあまり、と言うか、その真希さんを指差して言うアテナは生来、人への気遣いの足りない子である。
美保にその手を強引に降ろされて、
「すいません、始めまして工藤さん」
と部活でも先輩後輩に厳しい美保はその辺の諸事をきちんとできるいい子である。のでアテナといると気苦労が絶えない。
「真希さんでしょ? 可愛いもん、小っちゃいし、北海道弁もひどいよ」
と自分の失礼さを理解できないアテナは続けて言う。
「アテナ!!!」
と、小声で怒鳴る器用さを発揮する美保であった。
「いいって、いいって、私が可愛いのも、北海道弁なのもあってっから」
とケラケラ笑う真希である。
思わず愛生は、
偉い人なのかな?
程度に考えていたが、事態を飲み込めてない様子を悟った美保が、
「ギルドで一番偉い人、だからダンジョンで一番偉い人」
と、愛生に耳打ちして教えてくれる。
本来、北海道ダンジョンに入れば、きちんとした段取りを踏んでいれば、工藤真希を知らないダンジョンウォーカーなんていない筈であるが、愛生の場合、立て板に流す水のごとく、ダンジョンへの奥へと進んでしまった為に、スライムの森も、このギルドの事も知らないでいる。以前、英雄陣の前も、友達に連れられて直接、紙ゴーレムに会いに言ってたので、この辺はすっ飛ばしている。
「あれ? でも真希さんって、ギルドは後輩に譲ったって話では?」
と美保がふと気がついた様に言うと、
「だから、今はこうして後輩の育成に協力してるんだべ」
と真希は言った。
そんな様子を見ながら愛生はそんな人が居たんだと驚く愛生であった。
今はその席を後輩に譲るとか、引退してしまった筈のそんな偉い人である真希は、ニコニコと三人を見渡して、
「なら、今日はみんなでスライム退治ってかい?」
と真希が尋ねると、
「いえ、勇者登録に来ました、その後は適当に中階層で遊ぼうかな? って思ってます」
と美保は自分の姿を見せる様に、両手を広げて、腰に聖剣、ダンジョン推奨の青色のジャージ、札幌市街地を歩いても気にならないオシャレな胸当てを見せてそんな風に言う。
ちなみにアテナも同じ姿で、若干、美保よりも色を暖色系ととのている。
比べて愛生の装備はと言うと、以前買って結局一度も持ち出すことはなかった、オンコの棒(L)である。
つまりは普通に木の棒であった。
そして、愛生に至っては、普通の学校指定のジャージだった。
その姿、装備を確認して真希は言う。
「なら、ここは飛ばして次に進むってかい?」
と言うと、
「だって、ここ『染みスライム』を消す所でしょ? 修学旅行生専用のダンジョン体験施設みたいな?」
と半笑いで言うアテナに、真希は言った。
「そんな事だから、折角の聖剣持っても未だにメガオークに勝てないんだべ」
と言われて、ハッとする美保に、何を言われ何を指摘され何が起こってるかわからず、ひとまずうろたえるアテナであった。
そして、その驚きは愛生も一緒だった。
真希は続けて、
「ほれ、愛生ちゃん足元」
って言われて、驚いて飛びのくと、その指定された場所に、青いスライム染みが浮かび上がってる。
「気配とか感じとかわからないべ?」
と言われる。
今を持ってしても、いたって普通な感じて何の気配も察せられない愛生だった。
ただ驚くばかりの三人に真希は言う。
「この『遭遇感』を理解できないと、次の行動も決められないべさ」
遭遇感? 次の行動?
驚く愛生に真希は諭す様に言う。
「ただ目の前にいる敵を倒すだけなら、いつかどこかで自分よりも強い敵に出会った時に、倒される側に回ってしまうべさ」
「愛生ちゃんは知ってるべ? ただ戦うだけなら、暴れたいのならそれでもいいべ、でもあんた達はダンジョンウォーカーだ、このダンジョンで上手く立ち回って、せいぜい奥まで歩き廻るがいいべさ」