閑話13【そして少女達は勇者を目指す①】
世間は、一時期大騒ぎになっていた。
この国の財閥である海賀が、不正を行なっていたことを、突然、陳謝して、各社マスコミを呼んで、反省会の様な記者会見を開き、そこにいる現会長、総出で頭を深々と下げてお詫びを世界に向けて発信していた。
その内容は、会長の孫が行なった詐欺まがいな行為。国際基準に抵触する秘密保全(自衛隊装備の持ち出し及び私物化)からの逸脱。数件に渡る脱税行為、等々。
特にダンジョンウォーカーの皆さんにはご迷惑をおかけしました。と頭を下げていた。
ちなみに、ご迷惑をおかけしたと、海賀の言うダンジョンウォーカーの家には、一軒一軒、菓子折りを持って専務以上の者達がお詫びに訪れたと言う噂も出回っているが、それは事実であった様だ。
だから、今回の、装備によるところの保証と呼ばれる個人的な負担は消滅したのである。
滝壺愛生の場合も、その事実を会社側の謝罪に来たことで、娘にとって負担をかけてもいた事を知った両親は、大変憤慨して、一時は、父親は会社を辞めるところまで考えてしまうが、それは娘である愛生によって説得されて、今は平穏無事な毎日になっている。
あくまでも、問題があったのは経営者一族であって、組織やグループ自体は責任を問われるものではないと言う、世間はそんな判断を下していた。
嘘の様に消えてしまった不安と恐怖に愛生は、今思えば、あの日、あの時、あの変な団体と、石狩川で釣りをした時に、何かの潮目が変わった事、根拠などはないのだが、久しぶりに笑えたあの日の出来事から事態は好転して行った気がするのだ。
顔の白い男の子と、美男美女な人達。
みんな自分と同じくらいの歳に見えたけど、どこか浮世離れしていると言うか、どこか違和感の様な物を感じてしまう愛生でもあった。
でも、楽しかった。
あの日、久しぶりに笑った気がした。
釣りなんて、父に連れられてホッケやイカを釣りに行った以来だから、小学生以来だった。しかも自分の家の近くで、あんなに大きな鯉にエイ、カレイが釣れるんなんて驚きだった。
しばらくは、ダンジョンに入るのをやめて、近所である石狩川で釣りでもしようかと思っている愛生は、その希望というか思いつきを簡単に止められてしまう。
それは同級生からのダンジョンの誘いであった。
以前の様な、浅階層で紙ゴーレムをなどと言う軽い話ではなく、ガッツリと深階層までのお誘いだった。
愛生の通っている学校は、ギリギリ江別市で、交通の便もいいので、札幌の子供達も通ってくる。
特にバスケット、やバレーボールが強くて、部活とかも盛んな学校でもあった。
しばらくダンジョンにも行ってないなあ、そんな時期に声をかけられたたのだ。
気がつくと、あの海賀後ループの謝罪からも時間は流れていて、あの大通りの戦争からは半年くらいは経ってたのかもしれない。
そんな時、
「お願い、滝壺さん、ダンジョン付き合って!」
とあまり話もした事のない同級生にそんな風に懇願されてしまう。
そして同時にビックリもした。
なぜなら、そう声をかけて来た二人は、ダンジョンに行っていたなんて話は聞いたことがなかったから。いきなり突然何を言い出すのだろうと、そう思った。
一人はオカッパな和風の少女、彼女はともかくおとなしい人で、自分から積極的にダンジョンに行く様な子じゃなかったはず。
そしてもう一人は、長身な少女で、部活な人だったから、ダンジョン入っては、マズイ筈。一回でもダンジョンに入ったら、高校の運動協会とかは選手になる権利とか剥奪されるって聞いてる。
で、どうして私なのだろう?
さて、帰ろうとするところで、そんな二人に机を囲まれて、驚く愛生である。
思わず、
「別に、二人でも大丈夫でしょ?」
と言う言葉が出た。
すると、純和風な少女は、驚いた事に目に涙を溜めている。
「ダメなの、私達二人じゃ、メガオークを倒せないの、いつも言われるの『出直して来い!』って」
メガオーク??? 『出直して来い!』?
愛生には彼女達が何を言っているのか意味がわからない。
「ごめん、混乱するよね、すごく簡単に説明するね、勇者になるの」
ただ、自分の机に齧り付く様にパニクる和風少女、木下アテナからは愛生が理解できる様な説明は期待できないと思い、その友人である佐々木美保の方を見る。
確か、この子は部活を頑張っていた子だ。それがいきなりダンジョンなんて、と愛生は思うのであるが、美保自身の表情になんの陰りも見えず、至って明るい表情だ。
「ごめんね、私、滝壺さんが強いって聞いたから、いつもとかじゃなくていいから、一度だけでも付き合って欲しいんだ」
と言ってから、美保は説明を開始する。