閑話12【かつての英雄少女と石狩川とダンジョンの子供達④】
良く言う『普通の少女』と言う括りについては、彼女自身、どこか自身を卑下している言い方でもあるが、この国において、その呼び方は決して低さを表す意味ではなく、集団に自然に溶け込める、個性の無い個性は寧ろ優秀だとも言える。
そんな彼女が、なんの前触れも無く、その普通と言える範囲から大きく突出する。
それはスキルの発現であった。
しかも、その能力は他に類を見ない、ともすると、使い熟しさえすれば、いや、その一端を担うだけでも、おそらく強者の連なる北海道ダンジョンの深階層でもトップクラスの性能であった。
彼女がそのスキルに目覚めたのは、つい2ヶ月前の出来事。
あの戦争の直後のことであった。
あの戦争とは、平和維持活動と称して、各国の国連下の軍隊が、この北海道の地、そして、あの大通公園に集結した時の事だ。
戦争など、読んで、教育されて知る世代である愛生くらいの歳の子供にとっては衝撃的ではあったが、まるで、漫画やドラマ、ともするとアニメを見ているくらいに、起こっている事実に現実味がなかった。
でも、それは愛生の知る場所、馴染みのある場所で起こった。
北海道で、しかも、時折同級生らと一緒に買い物、又はダンジョンに入る為に遊びに行く札幌の市街地で起こった戦争。
一時、市街地は閉鎖されて、大通りで『北海道産魔王』と『国連軍』が戦ったと言われる戦争。
緊急事態宣言の上に、いつでも避難場所に行ける様にと、自宅待機していた愛生は直接その目で見たわけではないが、それはもう熾烈な戦いだったと噂では伝え聞いている。
最終的には、北海道ダンジョンは不可侵の場所になった様だとも聞いているのだが、それについては、実際に戦闘かあったのか、そしてあったとしても果たして勝者とは誰ったのか? 以前不明のままであった。
ただ、少なくとも『魔王』はいるらしいと言う事だけは、子供達もなんとなく大人の人の口からは聞いている。
しかし、誰も知らない事実や事件は決して公にされる事なく、謎のままで、確かに、戦う音は聞いていたという札幌に住む友達は何人もいて、事実、札幌から離れた愛生も家の中から、大砲の音を聞いている。
あれは、空気の澄んだ時には江別市届く、豊平川花火大会の空高くから響く花火の音などではなく、まるで地面を這う様に、お腹に響いく普段なら決して聞くことの出来ない、銃声や爆発する様な音、空には戦闘機が飛んでいたと皆が言っているのではるが、戦闘の起こっていた箇所と思われる大通り公園も、次の日には何事もなかった様な佇まいとなっていた。
しかし、その後、北海道ダンジョンは、どの国にも属さないという宣言がなされ、その代表が、ダンジョン不可侵の公約をこの国の政府をはじめ、各国との取り決めがなされた、なんて噂を聞いている。
もちろん、それは公式のものではなく、どこからともなく流れてきている噂だ。
どこかにそんな情報を流布する忍者でもいるのではないかと言う、関係ない噂すら流れるほど、情報は、人伝にどこから共なく伝わってきているのだ(忍者の噂は不自然なほど早く消えた)。
だからなのか、それとも、そんな事なかったからなのだろうか、ともかく、北海道ダンジョンは次の日から普通に運営されていた。
実際に何か起こったのかは決して公共に知らされる事もなく、ただ、ダンジョンがNPO法人になって、代表が『魔王』を名乗る様だという冗談の様なニュースが流れていた。
もちろん、その事によって愛生の生活は何一つ変わる事がなかった。
友達に誘われて、行く程度のダンジョン。
行った所で浅階層止まり。