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閑話12【かつての英雄少女と石狩川とダンジョンの子供達①

 滝壺(たきつぼ) 愛生(あき)は、石狩川に架かる大きな橋の真ん中で、この川の行く手である石狩湾を見つめるが如くに、佇んでいた。


 もちろん、石狩大橋の、ここから石狩湾など見えはしない。


 でも、そんな現状が、見通せぬ今の自分の未来を見ている様で、鉛の様な重さを持ってしまった不安な心を抱いて、その表にはなんの感情も出せないでいた。 


 決して信じていた訳じゃない。


 でも、自分が信頼されていることは嬉しいと感じていた。


 だから、こんな状況になってしまっている今、自分の置かれた現状と、何より自分自身の立場を理解しできないでいる。


 手にある一枚の紙切れを見ると、そこには『装備一式の弁済費用』と書かれていて、内容は、初代微水の一刀、『嬉々烏』、そして、海賀重工製防具一式の破損による費用の一部の負担が書かれている。


 その費用は、海賀総合商会との負担割合で、海賀側が3、保険会社が5、そして、装備を付与されていた自分が2割の負担だった。


 そしてその費用が、8億2千万円。


 その請求が、弁護士の内容証明書とともに送られてきた。


 送り先は、自分ではなくて家に、父宛に送付されてきた。


 驚く両親に、その封書を奪い取るようにして、


 「だ、大丈夫、なんとかなるから、これもダンジョンの形式みたいなものだから!」


 よくそんな嘘が、口から出たって思えるほど、驚いているのは自分も一緒なのに、とっさに家族をかばってそんなでまかせを言って、家を逃げる様に飛び出る。


 すぐに海賀に連絡を取る。


 しかし、全く電話もその他の手段を取るも、出る気配が無い。


 仕方なく、他のメンバーにも連絡した。

 何人かは連絡が取れたが、概ね反応は2つ。


 海賀の周りの人。つまりそのグループに名を連ねる人は皆、弁済するらしいが、弁護士を雇って負担割合を軽くしてもらうそうだ。上手く行けば半額くらいは減額できるらしい。


 概ねの反応として、息子や娘が、これでダンジョンの様な危険な遊びから手を引いてくれるなら、高い勉強代だと、そんな認識だった。


 問題は、彼女の様に一般の普通の家庭から出ている人間だ。


 その割合は英雄陣の2割ほどで、そして何より愛生ほど高価な装備はなく、せいぜい費用は数百万円代。


 払えない金額では無いということだった。


 それでも数人は愛生と同じ様な高額になっている者もいる。


 中にはショックで寝込んでしまった人もいるらしい。


 確かに、装備を配布された時点て、彼女は海賀の弁護士の立会いの元、消失、紛失、毀損された場合は一部費用を負担してもらう事があるとは聞いていたけど、これほど高額になるなんて思いもしなかった。


 そんなに払えないしって言いたいけど、愛生の父は、今も海賀のグループ会社で働いているし、そんな事を言ったらきっとクビにされてしまう。


 父親は今の仕事が大好きで、子供の立場からしたら、自分の為にそれを辞めてしまうなんて、そんな風になる未来を想像しただけで、胸が押しつぶされそうになる。


 愛生は追い詰められていた。


 もう、誰も頼る事が出来ない。


 川の水面を見つめた。


 「おい!」


 びっくりする。


 急に愛生に声がかかった。


 見ると、自分と似た様な年齢の子供達の集団がいる。


 次の言葉は、


 「そんなに身を乗り出したら危ないぞ」


 って言われる。


 思わず、


 「あ、うん、ごめんなさい」


 と愛生は返事というか、ひとまず頭に思い浮かんだ言葉を零す様に出した。


 愛生に声をかけた少女は、


 「うわ、高、怖!」


 と、いつの間にか橋の欄干から身を乗り出していた。


 さっきの自分と同じ体制になって、そんな言葉を叫んでいた。


 「ほら、梓! お前も危ないぞ!」


 と、その集団の中にあって、一人、スラリとした美人な女性がそんな風に言う。


 「いや、桃、だって、こいつが、ずっと覗き込んでるからさ、何か見えるのかなあって思って……」


 「だからってお前もおんなじ格好したらダメだろ、ここはダンジョンじゃないんだぞ」


 と、注意を受けているそんな状況を見ながら、自分がしようとしていた事を教えられる。


 本当に私、ここから身を投げる格好をしていたんだ……。


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