閑話11【夢のお告げから勇者への道 ②】
これで一応の決着はついた形になった。
そして、それと同時期に、誰もが、あの紛争が夢だったように、他国の軍隊が札幌の地にやってきたことなんて夢を見ていたようだと考えていた頃に新たな案件がこの地に吹き出し始める。
最初は、誰もが気のせいだと思っていた。
だって、ダンジョンがあるこの地だから、ちょっと頑張ってる子ならこんな夢くらいは見るんじゃないかなって、誰もが思う。
だって、国や道に認定された魔王がいるのだから、このくらいの夢とか、意識してしまえばみるかもと誰もが思っていた。
だが、それは現実だった。まごう事なき事実だったのだ。
しかも徐々にその数は増えて行く。
一部、予知夢なのかも、と囁かれ始める。
つまり、それはあの、職業を、クラスを、栄誉を告げる予知夢。
報告された事案は、次のような物だった。
佐々木美保はその日、疲れてぐっすりと寝ていたはずだった。一生懸命部活に参加しているものの、打ち込むその競技に対して、なかなか才能や向いている自分というのを発見できないでいた。
すでに二年もやってるし、家の人間や先輩の言うように、違う何かに打ち込むかなあ、など考えていた。
悔しいなあ、と思った。自分より後輩は自分やようやくできるようになった事を数日のうちに来ないしてしまう、そんな才能を見せられてしまう。
でもだからと言って、枕を涙で濡らすほどのショックを受けているわけでもない。ただ何となく友達に誘われてこの部に入って、そしてなんとなく続けていた。ちなみに美保を誘った友達は、すでにこの部活を止めて、今は北海道ダンジョンで楽しくやっているそうだ。
もとより暗がりが苦手な美保ではあったが、話を聞くと楽しそうだし、自分も行ってみるかな? などと思いながら、その日は就寝についた。
だからだろうか、変な夢を見た。
面白いと思ったのは、これが夢である事、それを自覚出来ていると言う事、今の自分はベッドで寝ていると知っている事。
だから、安心してこの夢を見ている自覚がある。
どこだろうここ?
見覚えのない、全く知らない場所に戸惑うも記憶にも全くない場所を夢見ている事に驚いてはいた。
まるで神殿の様なところだった。
そして、美保はゆっくりと進んでいる。足が自然に前に前に進んだ。
「ようこそここへ来てくれました」
突然、響くその声にびっくりするも、正面に顔を向けるとそこには神様、いや女神様の姿が……。
女神様だよね?
突然、少女の夢に顕現した女神ブリドは言う。
「大丈夫です、確かに今、あなたに兄、じゃなかった魔王に対抗するべき力はありません」
ああ、良かった特に無理を言われているわけじゃないんだと、その言葉を聞いて、安心する。
そして、ブリドは薄い書類を渡す。
と自身の思い込みをそのまま疑ってみるも、人よりもサイズが二回りほど大きいので、人間ではない、背中から白い翼が見えるし、いいんだよね女神で?
その疑問に答える様に彼女は語る。
「私は北海道ダンジョン3柱神の1柱の贖罪と鏖殺の女神ブリド」
そう名乗った。
やっぱ女神かあ、まあダンジョンあるし、うちにも紙ゴーレムいるし、その辺は納得している美保である。女神だって現れるかもしれない。
ただ、問題なのは、その女神様が私に一体、なんの用なんだろう?
すると女神ブリドは告げる。
「佐々木美保、あなたは勇者となって、深階層、最深部にいる兄……、今の無し……、魔王真壁秋に挑み、北海道札幌市白石区あたりに平和をもたらすのです」
「え? 白石区でいいんですか?」
「はい、概ね南郷13丁目付近から平和通くらいまでの平和を守るのです」
随分、限定的な勇者だなあ、って思って、それに今住んでいるところだから近所だし。丁度いいかも、とは思うけど、勇者って? とも思う美保であった。それにさっき兄とか変な事言ってたし、なんか変とは思うものの、そのお告げに対して、ちょっと、いやかなり荷が重すぎると感じる美保であった。
だから、
「私に勇者なんて無理です」
と率直にその感想を言った。
だって、勇者なんだ。勇ましくて強い者。自分はダンジョンにだって入った事が無い。
それに、魔王を倒すなんてできない。あの時、特集で見た魔王は、たった一人であんな大勢の軍隊を退けていたし、あんな強大な力に対抗するんなんて無理だ、しかもあの顔は好みだし、ちょっとかわいいなって思ってしまったし。
それはA4紙数枚にまとめられた書類である。